原始の湖畔、サファイアの瞳

 彼女の体が宙に舞う。 日差しを浴びて白銀に輝く湖の上を、優雅に、けれどどこか名残惜しそうに低空で旋回する。

 少年はその姿を、ただ呆然と見上げていた。
 鏡のような湖面に映る真っ白な影に、彼はいつしか自分の魂を重ね合わせていた。

 頬を、熱いものが伝う。 狼に裂かれた時のような「痛み」ではない。
 なのに、溢れ出した涙は止まることを知らず、少年の視界をあんず色の光の中に溶かしていく。

(よし……そのまま、二度と戻ってくるな。遠く、もっと遠くへ――)

 だが、少年の祈りは届かなかった。 空を自由に泳いでいたはずの翼は、再び大きな弧を描き、少年の元へと舞い戻る。

 目の前に降り立ち、羽ばたきを止めた彼女の瞳は、先ほどよりもいっそう深く、少年の心を見つめていた。

(……何をやっているんだ、お前は!)

 激しい困惑とともに、少年の「ウゥーウゥー」と唸る。言葉のない叫びが湖畔に響いた。
 自由を掴み取れるはずの彼女が、なぜわざわざ泥にまみれた自分の元へ戻ってくるのか。

 だが、その問いが口からこぼれた瞬間、少年の腕は勝手に動いていた。