原始の湖畔、サファイアの瞳

 ――そんなある日。音が、世界から消えた。

 眠る『白』の隣で、少年は肌を刺すような強い視線を感じ、跳ね起きた。
 虫の声も、風のささやきも止んでいる。

 全ての生き物が、この世から一斉に息を潜めたかのような不気味な静寂。
 少年は本能的に、傍らの石槍へと指を伸ばした。

 だが、その指が冷たい石に触れる直前、彼は「視線の主」が地上にはいないことを悟った。
 ゆっくりと顔を上げる。

 そこには、漆黒の森に囲まれた円形の夜空を、のぞき込むように見つめる巨大な顔があった。

 ――女神だった。

 額には月光を凝縮したような石が輝き、耳元からは波の音を封じ込めたような貝の飾りが垂れ下がっている。

 少年はあまりの神々しさに、槍を握ることも、逃げることも忘れ、ただ立ち尽くした。

 不思議なことに、恐怖は微塵もなかった。
 ただ、自分自身がひどく悲しく思えたのだ。

 女神の瞳は、泥に汚れ、血にまみれ、牙を剥いて生きてきた少年のすべてを――その醜さも、懸命さも、孤独も――まるごと包み込むように、優しく、そして哀れみを持って見つめていたからだ。