「きゃあ!今なんか動いた!」
「櫂理君、歩くの早いよ。もうちょっとゆっくり」
「お願い、もっとぎゅってして」
やばい。
マジで可愛過ぎて萌え死にしそう。
奥に進むにつれ、鏡の中で何かが動いたり、置物が動き出したり、白い紙みたいなのが飛び出したりと。
様々なアクションが起こる度に莉子は俺に飛びつき、半泣きになりながら力の限り抱きついてくる。
しかも、肩を抱いて欲しいという普段では到底考えられない要求も恐怖によって平然としてくるので、そろそろ我慢の限界を向かえそうになる。
それから、更に部屋が暗くなっていく中、最後に残る居間の前まで到着し、扉を開けて中へと足を踏み入れた時だ。
「きゃあああああ!」
莉子の悲鳴が部屋中に響き、背後を振り向いた直後。
長い髪を垂らし、白い着物を着た女みたいなやつが莉子に向かって襲ってくる。
そして、手を伸ばした瞬間。
条件反射で体が勝手に動き、俺はそいつの胸ぐらを掴み上げた。
同時にお化け役のカツラが床にずり落ち、そこにはハゲたおっさんが怯えた目で俺を見下ろしていて、男だと分かった途端、全身の血が沸き立つ。
「てめえ俺の前で莉子に近付こうなんていい度胸じゃねーか。覚悟はできてるんだろうな?」
「すすすすみません!ていうか、これただの仕事ですから!あああなたの彼女さんに手を出そうなんて、これっぽっちも思ってませんからっ!」
ハゲおやじが怯えながら必死に懇願する中、理由はどうあれ莉子の半径一メートル以内に近付く人間は誰であろうと許さない。
それを分からせるために、胸ぐらを掴む手に力を込めた矢先。
「櫂理君!通報されちゃうから、その人早く離して!」
先程の悲鳴と同じくらいの声量で莉子に一喝されてしまい、俺は渋々ハゲおやじから手を離したのだった。



