「依存が嫌ってわけじゃない。……ただ、怖いの」
依存し過ぎるのも怖い。
離れていくのも怖い。
このままじゃ恐怖に縛られて、何も動けなくなる。
すると、櫂理君は不意に私の頬に指を滑らせると、髪をそっと掻き上げて、顔を近づける。
「それじゃあ、俺から離れなければいいじゃん。このまま一緒に堕ちれば、何も怖くない」
耳元をくすぐる熱い吐息と、掠れた低い声。
それはまるで、逃げ場を防ぐ悪魔の囁きのようで。
脳にまで絡みついてくる妖艶な誘惑が、容赦なく心を掻き乱してくる。
「もう、お願いだから冗談はやめ……」
「ねえ莉子。キスして」
その誘惑から、なんとか逃れようとした矢先。
今度はなんの前触れもなく、とんでもない要求をされてしまい、一瞬思考回路が停止する。
「櫂理君、何を言ってるの?」
「勉強教えたんだから、ご褒美。頬でいいから」
そうねだってくる櫂理君は、いつの間にか弟顔に戻っていて。その切り替えの早さが、余計悪魔に見えてくる。
落ち着け、私。
櫂理君のせいで色々と情緒が乱れてるけど、頬キスなんて昔よくしてたじゃない。
そう自分に言い聞かせると、暴れる心臓を鎮めるために小さく深呼吸をする。
それから心を無にして、おそるおそる櫂理君の頬に唇をあてた。
「……これでいい?」
ほんの数秒、触れる程度のキス。
すると、櫂理君は口元を小さく緩め、私と視線を合わせてきた。
「今度は《《二人だけで》》勉強会やろうな」
そして、妖しい笑みを浮かべながら、満足げにそう断言してきたのだった。



