それから、雨宮君は私の話を聞き終わったあと、最後まで関心を示すことなく、さっさと食堂に行ってしまった。
結局、ただの興味本位だったのか。
何か助言がもらえるのかと、少しだけ期待してしまった自分が浅はかだった。そう痛感すると、私も後に続いて教室を出た。
とにかく、櫂理君の様子を確かめなくちゃ。
なんて言ったて、ここは血の気が多く、モラルを捨てた人達ばかり。
雨宮君の言うとおり、本当に櫂理君が狙われているのなら、姉として黙ってはいられない。
私が行ってどうこう出来るとは思っていないけど、せめて忠告はしようと。彼の所在を確認すべく、ポケットにしまっていたスマホを取り出そうとした時だった。
「……らしいな」
「そうか。それじゃあ、一人になった時が狙い目か」
「本当に、あいつが来てから俺らの立場はずっと丸潰れだったからな。長年の恨み、思う存分晴らしてやる」
どこからともなく聞こえてくる物騒な会話。
内容からして、櫂理君の襲撃計画だろうか。
私は行き交う人の中から声の主を探すために、必死で周囲を見渡す。
だけど、通路には沢山の不良達がたむろしているせいで、全く見当がつかない。
というか、下手したら、ここにいる全員がそうではないかと思ってしまうくらいに。
「……莉子?こんな所でなに突っ立ってんだ?」
すると、背後から知った声が聞こえ、私は咄嗟に振り返る。
「櫂理君!丁度よかった!」
まさか、ここで彼に会えるとは願ったり叶ったり。
気付けば通路に居座っていた人達は一気に捌け、この場に居るのは私と櫂理君だけ。
結局、会話の相手を見つけることが出来なかったのは悔しいけれど、とにかく今は早く伝えなくちゃ。
「雨宮君から聞いたの。櫂理君、今隙だらけで周りから狙われてるって。さっきもそこで襲撃計画みたいな話が聞こえてきて……だから、気を付けて欲しいの!」
これぐらいしか出来ない自分が非常に不甲斐ないけれど。これで少しでも警戒してくれるなら、成果はあるはず。
そう願って、私は必死な目を櫂理君に向けた。
「…………それって姉としての忠告?」
「え?」
そして、暫く間が空いた後、唐突に投げられた質問に、一瞬だけ思考回路が停止する。
「それは……」
蘇ってくる昨日の記憶。
これでまた有耶無耶な返答をすれば、再び櫂理君を傷付けてしまうかもしれない。
そんな不安が脳裏を過り、なかなか次の言葉が出てこない。
「悪い。今のは忘れて。とりあえず俺は大丈夫だから、余計な心配はしなくていい」
すると、櫂理君は強制的に話を終わらせると、やんわり口元を緩ませ、私の頭を軽く撫でる。
それから、特に会話を広げることもなく、足早に通路の奥へと消えて行った。



