夕飯の買い出しが終わり、スーパーから徒歩五分くらいで到着した新しい三階建のアパート。
その三階角部屋が圭君のお部屋らしく、なんだかんだ人生初異性のお宅訪問だということに気が付き、今更ながら緊張してくる。
けど、相手は圭君だし、変に意識してはダメだと自分に言い聞かせると、平静を装いながら家の中に足を踏み入れた。
「うわー。圭君って綺麗好きなんだね」
そして、玄関を抜けてまず目に飛び込んできたのは、白と黒の家具で統一されたモダンなお部屋。
急な訪問なのに中はきちんと整理されていて、脱ぎ散らかした服など余分なものは一切置いてない。
高校生だけど、どこか大人っぽい雰囲気を醸し出しているところはさすがだなと感心しながら、とりあえず私達は部屋の奥にあるキッチンへと向かった。
今日の献立はカレーに決まった。
作るのも簡単だし、一回作れば何日かは持つし、タッパに入れれば櫂理君の分も用意できる。
圭君も櫂理君と一緒であまり料理をしたことはないみたいだけど、試しに包丁を持たせてみたら意外にも手捌きが良かった。
「圭君って包丁使い上手いね。料理全然したことないって言ってたけど、これならすぐ上達出来るんじゃない?」
「そうかな?でも、俺は自分で作るよりも作ってもらう派かも。だから、もっと莉子さんのご飯が食べたい」
さり気なく料理を薦めてみたら、さらりと甘い笑顔で言われた一言に、危うく心を持っていかれそうになった。
圭君は天然人たらしなのだろうか。
そんなこと言われたら、通い妻並みに毎日来ちゃうかもしれないけど、それでもいいのだろうか。
そう踏み込んでみようかと思ったけど、それはさすがにやめてと理性が働き、私は笑って誤魔化した。
「そういえば圭君はなんでうちの学校にしたの?頭凄くいいのに」
「家から一番近いから」
「……え?それだけ」
「うん」
「他には?」
「ないけど?」
そして、ここぞとばかりに色々聞き出してみようと、手始めに志望理由を尋ねてみたら、あまりにもあっさりとした返答が来て、思わず手の動きが止まる。
「俺、勉強は基本独学だから学校なんて別に何処でもいいから」
それから、あっけらかんとした表情で更なる驚き発言をしてきたことに、返す言葉を失ってしまった。
家から近いという理由で、こんな荒れに荒れまくったヤンキー校を選択するとは。
櫂理君といい、圭君といい、頭の良い人の考えはよく分からない。
すると、突然圭君との距離が近くなった直後。彼の手が私の腰に回り、後ろから圭君の温もりに包まれ、思わず軽い悲鳴をあげてしまった。
「け、圭君どうしたの?」
櫂理君ならともかく、圭君に後ろから抱き締められるのは初めてのことで、動揺するあまり声が震える。
というか、身内以外に抱き締められること自体初めてで、どうすれば良いのか分からず、私はその場で固まってしまった。



