どうしよう、言っちゃった。
もう後には引き返せない。
…………いや。
引き返そうと思えば引き返せるのかもしれないけど、私はもう逃げないって決めたから。
それから用意されたお風呂に入り、いつものようにお母さんが作ってくれた美味しいご飯を家族と一緒に食べる。
けど、あまりにも緊張し過ぎて今日は味が全く分からなかった。
それに、食事中は櫂理君のことを直視することが出来なくて、私は不自然に俯きながら箸を進める。
一方、櫂理君は普段と変わらない様子でご飯を食べていて、その差に何だか少しだけ悔しくなった。
こうして、今日一日やることを全て終え、ついに来てしまった櫂理君の部屋の前。
これまで小さく暴れていた心臓が、今では飛び出してしまいそうな程激しく鳴り響く。
ひとまず気持ちを落ち着かせるために何度か深呼吸をして、私は櫂理君の部屋の扉を叩いた。
それから数秒後。
扉が開いた瞬間、櫂理君の手が突然伸びてきて、私の腕を捕み部屋の中へと引き込んできた。
そして、バタンと扉が閉まる音と同時に、櫂理君は私を優しく抱き締めてくる。
「……はあ、やっと莉子に触れられる」
ため息混じりにそう呟く櫂理君は、まるで大型犬のようで。
首元に頭を擦り付けて甘えてくる姿が母性本能をくすぐり、その愛しさに堪えきれず、私も彼の背中に手を回して抱き締め返した。



