__莉子と初めて出会った頃。
「櫂理、今日から莉子ちゃんがあなたのお姉さんよ。私達はこれから家族になるの」
俺の誕生日を迎えてから数日後のこと。
あの時の出来事は今でも鮮明に覚えてる。
母親が再婚すると聞いて、抵抗を感じながら渋々莉子達と初めて顔を合わせた日。
そこから世界が一変した。
「初めまして。宇佐美莉子です。あの……これから、よろしくね櫂理君」
そう恥じらいながら恐る恐る差し伸ばされた手を、俺は暫く握れなかった。
天使だ……。
莉子を見て初めに思ったこと。
人形のようにパーツが整った顔立ちと、透き通った色白の肌。
優しさが滲み出る垂れ目具合と、澄んだガラス玉のような大きな瞳。
シルクみたいな艶のある細い髪質。
まるで妖術にでもかかったかのように、目を逸らすことが出来ず、人生で初めて”一目惚れ”というものに俺は直面した。
そして、幼いながらにそこで全てを悟る。
莉子を“姉”として見ることは、おそらくこの先一生ないということを。
それでも、当時はちゃんとした“弟”になろうと抗ってみた。
莉子を困らせたくなかったし、彼女の望む家族になりたかったから。
だけど、幼い故にそんな立派な自制心なんて効くはずもなく。
意思に反して、走り出した恋心は止まることを知らず。
ダメだと反発すればする程に、気持ちはどんどん沼へとハマっていく。
一方、莉子はちゃんとした“姉”になろうと必死に努力していた。
俺に嫌われたくない。
自分をもっと好きになって欲しいと。
言葉にしなくても、莉子の本音はダダ漏れていて。
とめどなく毎日注ぎ込まれる優しさと、無償の愛が、俺の心をどんどん狂わせていく。
彼女は正しい姉弟関係を築こうとしている。
だけど、俺にとってその気持ちはただの”毒”でしかない。
そんな毒をずっと浴び続けていたら。
いつしか二度と引き返せないところまで来ていて。
気付いた頃には、もう手遅れだった。



