暁に星の花を束ねて ─「上の方です」と答えたら、世界の上でした☆篇

「違うぞ。この建物自体がおれのものだ。なんならこの一体の土地も周辺のビルも、おれのものだ」

まるで「今日は晴れだな」とでも云うような口調だった。  

「えっ……!?」

あの中で繰り広げられていた「5階か12階か」というマウント合戦の熱量が、急に遠い世界の出来事のように感じられる。

「た、建物まるごとに土地も周辺も……!? じゃ、じゃあ……さっきの奥様たちも、れんの持ち物の中に住んでるってこと……?」

「厳密には店や部屋を貸しているに過ぎんがな。おれにとっては、チェス盤のコマを並べているのと大差ない」

佐竹は葵の腰をぐいと引き寄せる。

​「二フロア持っているのは、プライベート空間を確保するためだ。他の階はすべて収益物件か、あるいはSHTの関連施設に過ぎん」

「うへぇ……そうだったんだ!!」

感心仕切りの葵。
そんな葵をじっと見下ろす佐竹。

無防備なその顔をしばらく見つめる。
それがどれほど厄介で、どれほど価値があるかも知らずに。

このマンションを建設した時点で、佐竹が専用エレベーターを設計し、葵のために用意していたことも、葵は知らない。

ほんのわずかに視線が細くなる。


──他の誰にも触れさせるつもりはない。


佐竹はそのことを口にすることはなかった。

「わたし、ここが一番好きだよ」

「……理由は?」

低く訊く。

葵は、少しだけ考える。
そして─。

「れんがいるから!」

笑顔の葵。

それだけを、当たり前のように云った。
沈黙。
ほんの一瞬だけ。
それから。

「……そうか」

短く返すその声は、わずかに低かった。

窓の外には、無数の光。

そのすべてを掌握する男が、たった一つの理由にだけ静かに支配されている。

そしてその中心で。
葵は何も知らないまま笑っている。

──その笑顔のために、この世界の構造が組み上げられていることを。
それが、この世界でいちばん強いことだと知らないまま──。












「暁に星の花を束ねて ─「上の方です」と答えたら、世界の上でした☆篇」終わり