暁に星の花を束ねて ─「上の方です」と答えたら、世界の上でした☆篇

マンションに戻った葵。

「ねえ!なんで共有エレベーターには最上階がないの!? 何かあったとき大変じゃないの!?」

詰め寄る葵の剣幕に、蓮はわずかに口角を上げた。

冷徹なCEOとして世界の半分を掌握する男も、この小さな恋人の「世間知らずな正論」には毒気を抜かれるらしい。

「いいか、葵。共有エレベーターに最上階のボタンがないのはセキュリティと特権のためだ。誰でもボタン一つでおれの寝室の目と鼻の先まで来られたら、仕事にならないだろう?」

「ええ!? それでも何かあったら……!!」

「おまえの云う『大変なこと』が火災や地震なら、非常階段やヘリポートへの直通ルートが別にある。防犯上の『大変なこと』なら、共有エレベーターからこの階に止まろうとした時点で、SHTのセキュリティチームが動く手はずになっている」

佐竹はソファの葵の肩を抱き寄せる。

「もし共有エレベーターがこの階に止まるようなことがあれば、それはおまえの鍵が認証されたか、あるいはおれが許可した時だけだ。さっきのように、システムを上書きしてな」


葵はまだ納得がいかないのか、眉を寄せて佐竹を見上げる。

「でも! もしわたしが鍵を忘れて、下から『すみませーん!開けてくださーい!』って叫んでも、誰も気づいてくれないじゃない?」

「鍵は必要ないだろう? 虹彩に毛細血管認識なんだからな」

「……あ、そっか。そうだった。わたしの目とか、指とか、全部れんの機械が覚えてるんだもんね」

葵は自分の指先をまじまじと見つめて、ようやく納得したように小さく息を吐いた。
けれど、すぐにまた何かを思い出したように顔を上げる。

「でも! さっきのエレベーターのボタン、わたしの指で押しても全然反応しなかったよ? 『最上階』なんてどこにも書いてなかったもん!」

「当たり前だ。共有エレベーターの制御盤に、この階のデータを表示させる機能自体をロックしてある。おまえが指をかざしたところで、システムが『権限外の操作』とみなして無視するだけだ」  

「むぅ……」

葵は頬を膨らませたまま、でもでも攻撃。
佐竹を見上げる。
完全に納得していない顔だった。

「つまりね?」

腕を組んで、じっと睨む。

「わたしは、みんなと同じように帰ることができない人ってこと?」 

「そういうことだ。おまえは普通の範囲外だ」

「もう……またそんな云い方するんだから」

ブツブツと口を尖らせる。

「この建物自体がれんのものみたい」

「……おまえ、もしかして……おれがツーフロアだけ所有だと思っているのか?」

きょとんとする葵。
 
「え、違うの?」