正しくない恋のはじまり

三浦さんはわざと急かしてこない。ただ、こちらの選択を待っている。

「出すのか、出さないのか。どっち?」

静かに、ふたつの選択肢だけを置かれた。

「決めるの、藤井さんだよね?」

逃げ道はない。
そんなもの、最初から用意されていない。

部屋の空気が、息を潜める。

ふっと、漏らすように三浦さんが笑った。

「それにしても。あなたたち、いつの間に?」

軽く、けれど確実に話題をずらしてきた。


「仕事の相性、随分いいよね」

わざと揺らすために吐いているその言葉に、乗せられてはいけないのに、核心をつかれたようで息が詰まった。

「見てれば分かるよ。言わなくても通じてる感じ」

視線が、私たちの間をじっくりとなぞる。

頬にかかった長い髪を耳にかけながら、私たちの顔を行ったり来たりする彼女のそれ。

まとわりつくようだ。

「普通、あそこまで揃わない。理解してるとか、そういうレベルじゃなくて」

じわじわと、距離が縮まる。

「呼吸が合ってるっていうか…判断のタイミングも、迷い方も。どこか、似てる」