正しくない恋のはじまり

画面を閉じると、送信ボタンはそのまま残り、押されないままになっていた。

私は、ゆっくり立ち上がった。



椅子を引くキャスターの音が、やけに大きく響く。

ここにいられないと分かりながら、整理や確認といった理由を並べる自分に気づく。

どれも嘘じゃない。
でも、本当はただ逃げたいだけかもしれない。

パソコンを閉じ、一瞬だけ手が止まる。
ここに置いていけば、何も見なかったことにできる気がして。

それでもバッグに入れ、誰に見られてもいいように資料を揃えて立ち上がる。


誰かの視線を感じる。

気のせいかもしれない。
でも違うかもしれない。

振り返らない。
振り返ったら、何かを認めてしまいそうで。

そのまま、“仕事の続きです”という顔で歩き出す。


足は少しだけ重く、廊下に出ると足音がやけに響いた。


気づけば向かっていたのは資料室で、自分でも一瞬だけ戸惑っていた。
逃げるなら別の場所もあったはずなのに。

ドアノブに手をかけて止まり、それでも押し開けた。


ちょっと暗くて、静かな空気。
誰もいない。この雰囲気が、心地いい。

中に入りドアを閉めて、ようやく息を深く吐いた。

それから迷わず、パソコンを開いた。