キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる


「急に家を出て行ったお姉さまがこんなところで何してるの? そんな地味でみすぼらしい格好で街を歩いてるなんて」
 
 アリスは変わらず見下すような顔で私を見る。
 こんな時は何も言わずやり過ごすのがいい。私は黙って下を向いていた。
 するとアリスは私の隣にいたウィリアム様に視線を移す。

「ああ、もしかして貴族様に物乞いでもしてるの? みっともないからやめてよね。カーソン家の恥よ」

「黙って聞いていれば、君はさっきからセレーナに対してとても失礼じゃないか」

 ウィリアム様が私を庇うように少し前に出る。

「あら、お知り合いだったの?」

「そうだ。セレーナとは今、一緒に暮らしている」

「ウィリアム様っ」
 
 なんだかすごく語弊のある言い方だが、間違ってはいない。

「お姉様、そんなお相手がいたの? その方と駆け落ちでもなさって?」

「違うわ」

 さすがにそれはウィリアム様に対して失礼だと思った。

「そうよね。キズモノのお姉様にそんな相手いないわよね。そうだお姉様、家に帰ってきなさいよ。お姉様が出ていったあと、お父様がメイドを募集してたのだけどなかなか見つからないのよ」
 
「っ……」

 一体、誰のせいでこんな傷ができたと思っているのだ。
 夢も、持っているものも全て奪われ、やっと自由だけは手に入れることができると思ったのに。
 
 涙が溢れそうになる。そんな私の手をウィリアム様がそっと握った。

「こんなこと言いたくなかったけど、僕は」

 ウィリアム様が何かを言いけたところで、近くのお店からアリスが買ったのであろう荷物を抱えたローガンが出てきた。
 ローガンはこちらを見て驚いた顔をすると急いでアリスに何かを耳打ちする。
 アリスは焦ったように顔を赤くすると、私のことを睨み付け足早に去っていった。

「なんだったの……」

 まさかアリスと会うなんて思っていなかった。
 それにウィリアム様にもみっともないところを見せてしまった。

「ウィリアム様、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「迷惑なんてことないよ。それより大丈夫?」

「はい。慣れていますので」

 ヘラりと笑った私にウィリアム様は少し悲しそうな顔で「そっか」と呟く。
 
「帰りましょうか」

「そうだね」

 握られた手をそのままに私たちは屋敷へと帰った。

 その日の夜、いつもは地下で食事をとっているライアン様も珍しくダイニングで夕食を食べている。
 そして珍しく人間の姿だ。

 私の向かいにウィリアム様とライアン様が並んで座る。

「ライアン様、お怪我はもうよろしいのですか?」

「ああ」

「お食事ご一緒できて嬉しいです」

 珍しく一緒に食べているというのに何故か不機嫌だ。

「ライアン、そんな態度ではだめだよ」

「どうかされたのですか?」

「ごめんね。僕たちが手を繋いで帰って来たのを見たらしいんだ。理由を聞かれて街でのことを話したんだよ」

 ウィリアム様は私を心配して帰っている間ずっと手を繋いでくれていた。
 屋敷に入る前には離していたが、ライアン様に見られているとは思わなかった。

「何か困ってることあるならちゃんと言えよ」

「それは……私の問題ですので」

「僕も聞きたいな」

 言いにくい。あの家の話をしても全く楽しくないし、話し始めると私の傷のことも言わないといけなくなる。

「ねえセレーナ、君が初めてここに来た日、頬を腫らしてたよね? 何か関係ある? 僕たちはまだ知り合って間もないけどセレーナのことを大切に思っているよ。何かできることがあればしたいと思ってる」

「ですが、もう家を出てきましたし大丈夫ですよ」

「大丈夫じゃないから今日みたいなことになったんだろ」

 確かにそうだ。いくら家を出たとはいえ、今後今日みたいなことも起こりかねない。
 今回は隣にウィリアム様が居てくれたし、何故か突然アリスは帰って行ったので何事もなかったが、また次同じようなことになったら私はどうするのだろう。
 そんな不安から、二人にカーソン家での私の扱いや胸元の傷のこと、家を出てきた経緯を話した。

「こんな傷痕があってはお嫁にもいけないですし、あの家にいる理由もありません。自分の力で生きて行こうと思ったのです」

「そうだったんだね」

「ここでの仕事はとてもやりがいがあって楽しいです。でも、今日みたいなことがあるとやはり落ち込みますね……」

「許せねえ」

 ウィリアム様は心配そうに、ライアン様は時折怒りを露にしながら私の話を聞いた。

「家のことは私の問題ですし、話を聞いていただけて気持ちが少し楽になりました。ありがとうございます」

 現状、どうすることも出来ない。ここでの仕事が終われば出ていく身ではあるし、その後のことはそれこそ二人には関係のないことだ。
 私があの家に連れ戻されることになっても他の場所で働くことになっても私が自分で決めて生きていかなければならない。

 二人は釈然としない様子だったが、それ以上は何も言わなかった。
 その後、夕食を食べ終え二人は揃って地下へと戻っていった。


――――――――――



「セレーナのこと、どう思う?」

「解せねえ」

「今後ああいうことがないようにどうにかしてあげたいけどね。家のことには口出せないし……」

 ウィリアムとライアンは頭を悩ませていた。
 何かあるのだろうとは思っていたが、こんな辛い思いをしていたとは。
 いくら家を出てきたとはいえ、相手があの調子ではいつか家に連れ戻されかねないしセレーナの不安が消えることはないだろう。
 
「カーソン家のこと少し調べてみようか」

 黙って聞いていたアレンが口を開く。

「お願いしてもいい?」

「うん。ボクもちょっと気になることがあるし」

 アレンは貴族情勢について詳しい。というより随時新しい情報を調べている。
 それがコードウェル侯爵家の仕事でもあるからだ。主にアレンが情報収集を担っている。

「アレン、片っ端から調べろよ」

「わかってるよ」

 三人は薄暗い地下の部屋でひっそりセレーナのためにできることをしようと意思を固めた。