キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる


 次の日からはマライヤさんと二人で、ヴァイオレット様のドレスの製作が始まった。
 採寸をもとに型を作り生地を裁断していく。私はマライヤさんに説明をうけながら一連の作業を良く観察し、同じように生地に縫い線を描き、裁断する。

 手先が器用な自負はあったが、線を描く、生地を裁断するなどの作業は器用さだけでなく感覚的なセンスも必要なのだと感じた。
 はじめての慣れない作業に苦戦しながらも、少しずつ形になっていくドレスにとてもやりがいを感じていた。


 そして王宮に来て数日がたった頃、何故か私はコードウェル宰相の執務室に来ている。ウィリアム様たちのお父様だ。
 個別の作業部屋でマライヤさんと作業をしていると、宰相補佐官の男性がやってきて今から執務室に来るように言われたのだ。
 有無を言わさぬ圧に、マライヤさんも頷き私は訳も分からぬまま補佐官について執務室へとやって来た。

 ブロンドの髪を後ろに流し彫りの深い顔をしたその人物はデスクに座ったまま指を組み、私をじっと見ている。
 先ほどの補佐官は部屋には入らず私とコードウェル宰相だけの二人きりの空間で緊張感が漂っているが、私はとりあえず自己紹介をしておくことにした。

「はじめまして。セレーナと申します」

 しっかりと背筋を伸ばし深く頭を下げる。
 けれど、コードウェル宰相は顔色一つ変えず、私を見ているだけだ。
 数分間の沈黙が続く。その数分が永遠にも感じられるが自分からは何も言えることがない私はただその時間をひたすらに待つしかなかった。

 そして幾何かの時間が流れたあとコードウェル宰相が口を開く。

「君には息子たちの誰かと結婚してもらいたいと思っている」

「っ……」

 一体、なぜ呼ばれたのだろうと思っていた。なかなか口を開かないコードウェル宰相に何か良くないことを言われるのではないかと身構えていたが、まさか結婚とは。

「息子たちの秘密を知った上であの家で生活していたのだろう。早く結婚して子を成せと言っているのに」

 その口調はまるで子どもを作ることが義務であるかのような、その義務に反しているウィリアム様たちを蔑んでいるようなそんな含みがあるように感じた。

「あの、私はどなたとも結婚するつもりはありません」

 ずっと無表情で私を見ていたウィリアム宰相の眉がピクリと動く。

「そうか。なら後日、国王からの勅命として正式に君に令状を出すことになるだろう。無論、誰と結婚するかはこちらで決めさせてもらう」

「そんなっ」

「それが嫌なら君が決めたまえ。誰と結婚するか」

「どうしてそこまで彼らの結婚にこだわるのですか?」

「獣の血を残すことがこの国にとってなによりも重要だからだ」

 結婚というものが一体どういうものなのか分からなくほどはっきりと血を残すことが重要だと言ったこの人からは、我が子に対する愛情は感じられない。
 自分もそうであったのだとその表情が言っているようだった。亡くなったウィリアム様たちのお母様はどんな風に思っていたのだろう。
 そして今目の前にいるこの人はどういう思いで結婚したのだろう。そんなこと考えてもわかるはずはない。
 ただ、私はそんな義務的な結婚は絶対に嫌だ。三人のうちの誰でもいいなんて彼らをバカにしている。

「お言葉ですが私はっ」
「考える時間は与えよう」

「え?」

「君が決めなければこちらで決める。話はそれだけだ」

 強制的に話を終わらされ、聞いていたのか先ほどの補佐官が入ってくると私は部屋を出るように促されそのまま西棟の作業場へと戻った。

 マライヤさんは戻ってきた私に何も聞くことはなく、いつものように作業を再開した。
 けれど私はどうにもならない選択を迫られずっとモヤモヤしたままだった。

 それから少しずつ調整を繰り返し数日後、ヴァイオレット様のドレスが二着出来上がった。
 前日に試着し少し手直ししたものだったため私は一人でドレスをヴァイオレット様の部屋へ持ってきた。
 カレンさんにドレスを手渡し、部屋を出ようとするとヴァイオレット様に呼び止められる。

「セレーナさん、少しお茶に付き合ってくれないかしら?」

「今からですか?」

「マライヤさんには伝えておくから」
 
 そう言いながらカレンさんに目配せをし、カレンさんは小さく頷いたあと部屋を出て行った。

「座って」

「はい」

 私は言われるがままソファーに腰掛けた。ヴァイオレット様も向かいのソファーに座る。

「最近疲れた顔してるなって思ってたのだけど、仕事は大変? まだここでの生活に慣れないかしら」

「いえ、ドレス作りはとてもやりがいがあり楽しくさせていただいています」

「そう? それにしてはあまり元気がないようだけど」

 ヴァイオレット様は私がコードウェル宰相に呼び出され、結婚を迫られたと言ったらなんと答えるのだろう。
 以前、私に義妹になってくれるのを楽しみにしていると言っていた。やはり私と彼らが結婚することを望んでいるのだろうか。

「ヴァイオレット様は今も私に義妹になって欲しいと思っておられますか?」

 私の言葉にヴァイオレット様は顔をしかめた。予想外の話題だったのかもしれない。

「何かあったの?」

「先日、コードウェル宰相に呼ばれました」

「お父様に?! もしかしてあの子たちの誰かと結婚しろって言われた?」

「はい……」

 ヴァイオレット様は申し訳なさそうに小さく息を吐くと、式典があった日のことを話してくれた。
 ウィリアム様たちが父親に呼び止められ帰ってくるのが遅くなった原因の出来事を。