キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる


 私は大広間の前でしばらくウィリアム様たちを待っていたが、なかなかやって来ない。他の参加していた貴族も移動し行き殆ど人がいなくなっていた。

 そこにカレンさんがパタパタと私のところへ駆け寄ってくる。

「セレーナ様」

「カレンさん、お疲れ様です」

「すみません、ウィリアム様たちですが少し事情がありましてまだ帰れそうにないのです。帰りの馬車を用意致しますのでお送りいたします」

 屋敷まで送ってくれるというが、それならパレードを見てから帰ってもいいかもしれない。

「あの、送りは大丈夫です」

「ですがお一人では……」

「今までも一人で通っていましたし平気ですよ」

「そうですか。それではお気をつけてお帰りください」

「はい。今日はありがとうございました」

 カレンさんに見送られ私は王宮を後にした。
 そして屋敷の方ではなく街へ向う。ついでに明日からの仕事の確認のためにエタンセルに行ってマスターとお話してから帰ろうかな、なんて考えながら歩いていると後ろから控え目に肩を叩かれる。
 振り返りとフェリクス様がいた。

「セレーナさん、少しお話しませんか?」

「お話、ですか?」

「はい。街へ行かれるのですよね。私も行きますので歩きながらでも」

 そう言われると断りにくい。マスターからウィリアム様たちと仲が良くないと聞いてしまった後で少し不安もあるが悪い人ではなさそうだ。
 私はフェリクス様と並んで歩き出す。

「セレーナさんはあの三兄弟の誰と結婚するのですか?」

「えっ?」
 
 まるで三人の誰かとは必ず結婚するような言い方だ。

「あの、私はあの方たちとはそういった関係ではありません。誰とも結婚するつもりはありませんので」

「結婚しないならどうしてあの家にいるのですか? あの三人が理由もなくあなたをただ置いていると思っているのですか?」

 どういう意味かわからなかった。けれど、フェリクス様の言葉が深く胸のうちに突き刺さる。
 私も少なからず思っていたことだ。ただ屋敷のカーテンに刺繍をするためにいるのではない。
 彼らが私のことを大切にしてくれているのはひしひしと感じる。でも、どうしてそこまでしてくれるのかはわからなかった。考えないようにしていた。

「分家の私は本家の兄弟と違って獣の姿にはなれないのです」

「そう、なのですか……」

 そしてフェリクス様は本家と分家について話始めた。
 分家は元々獣姿になれなかったコードウェル家の人間が獣姿になることにこだわらず家業を成り立たせるといって分かれていった。その後も獣の血筋にこだわらなかったため分家で獣の姿になる人間はいないそうだ。

「僕たちはね、あの姿に囚われている本家の人間を滑稽とさえ思っているんですよ」

「そんな、滑稽だなんて」

「あなたは獣姿になる子を産む条件を知っていますか?」

「条件?」

「あの姿で子を作るんですよ」

 『あの姿で子を作る』その言葉が何度も私の頭の中をこだまする。男性経験のない私でもどういうことかはわかる。
 ヴァイオレット様が言っていた、なかなか女性には受け入れられないとはそういうことだったのか。

「本家の彼らは獣の血を残すことに固執しています。だから獣姿が平気なあなたを取り込んで側に置いていると私は思いますけどね」
 
 そんなことはないと思いなからも、そう考えると腑に落ちる気もする。私は何も言えなかった。

「私たち分家は血を守るために無理に結婚させられる人たちも見てきました。私はセレーナさんを心配しているのですよ。もしあの家から逃げ出したくなったらいつでも私を訪ねて来て下さい」

 フェリクス様はそう言うといつの間にか着いていた街の中へと消えて行った。

 私はパレードを見る気分になれず引き返すと屋敷へと帰ることにした。

――――――――――

「あー、もう最悪だ!」

「セレーナ、ごめんね遅くなって」

 三人が屋敷に帰ってきたのは日が沈む少し前だった。

「急いで夕飯の準備するね」

 アレン様は帰ってすぐに地下へと降りていく。
 ウィリアム様とライアン様は疲れた様子でソファーに腰を下ろした。

「帰りはドレス姿のセレーナとデートしながら帰るつもりだったのにな」

 私は帰ってから何とか一人でドレスを脱ぎ着替えを済ませていた。髪もコームとヘアピンを外せば直ぐにほどけた。

「俺はまだセレーナのドレス姿見てないぞ」

「僕だって試着したところしか見てないよ」

 二人は少しふてくされている。

「式典の後お忙しかったのですか?」

「あんの、くそじじい」

「ライアン、父親にくそじじいはよしなよ。まあそう呼びたい気持ちもわからなくはないけど」

 式典の後、帰ろうとした三人は父親に引き留められ、ずっと話をしていたそうだ。少し苛立っているような、疲れたような二人に思わずオオカミ姿の時にしているように頭を撫でてしまう。
 今は人間だった、とハッとしたが、嬉しそうに私を見るのでもう一度だけ両手で二人の頭を撫でた。

 その後、夕食を作ってくれたアレン様が戻ってきたのでその日は久しぶりに四人揃って食べた。

 国王の話がつまらなかっただとか、壇上から私を見つけたけど前に座っている人が邪魔で良く見えなかったとか他愛ない話をした。

 私はフェリクス様から聞いたことを気にしながらも本人たちに聞く勇気は出なかった。
 もし、子を作るために私を側に置いているのだと言われたら私は一体どうするのだろう。
 悶々とする気持ちを抱えながらもずっとこのままの関係でいたいなんて都合のいいことを考えていた。