キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる


「セレーナさんは、あの子たちの中で誰が好き?」

「えっ……?」

 ヴァイオレット様はティーカップを上品に持ち、にこりと微笑みながらとんでもないことを聞いてくる。

「やっぱり落ち着いていて優しいウィリアム? 俺様ツンデレ系のライアン? 甘えん坊のアレンかしら」

「あの、私誰が好きとかは……」

「そう? 私はいつかあなたが義妹になってくれることを楽しみにしているのだけど」

「義妹?!」

 義妹ということは私があの三人の誰かと結婚するということだろうか。確かに家族のような存在ではあるけれど私なんかが結婚だなんてとんでもない。

「私は、決して皆さんとそういう関係ではなくて」

「あなたがそう思っていても、あの子たちがどう思っているかはわからないわよ」

「そんなことは……」

「セレーナさん、あの子たちの獣姿を見て可愛いと言ったそうじゃない?」

「それは、はい。もふもふしていてとても可愛いと思いました」

「ふふ。あの子たち、凄く嬉しかったと思うわ。あの姿はなかなか女性には受け入れられないから」

 そう言うヴァイオレット様も嬉しそうにしている。
 そうだ、彼らの姉ということはヴァイオレット様も獣に姿を変えることができるのだろうか。

「あの、ヴァイオレット様はあの姿には?」

「私? 私は姿を変えることは出来ないわ。一族の生まれでも姿を変えれる者とそうじゃない者がいる。女は特にあの姿になれるのはごくわずかなの」

「そうなのですか」

「ふふ。何か気になることがあったらあの子たちに聞くといいわ」

 ヴァイオレット様は笑いながらドアの方へ視線を向ける。するとタイミングよくノックの音が聞こえた。

「どうぞ」

 ドアを開け入ってきたのはウィリアム様だった。

「随分と早いお迎えね」

「姉上、あまりセレーナを困らせないで下さいよ」

「困らせてなんていないわよ。お仕事の話をして、その後楽しくお茶をしてただけ」

「楽しんでいたのは姉上だけではないですか」

 そんな言い合いをする二人が微笑ましく、いつもの三人のやり取りを思い出す。
 
「本当に仲の良い姉弟ですね」

「そうかしら?」

「はい。そう思います」

「姉上、仕事の話が終わったらセレーナを引き留めないで下さいよ」
 
 ウィリアム様は呆れているが、そんな様子もヴァイオレット様は楽しんでいるようだった。

「まあ、口うるさいナイトが迎えに来たことだし今日はこれくらいにしておきましょうか」

「姉上……」

「セレーナさん、明日からよろしくね」

 明日からあのドレスに刺繍を入れていく。失敗の許されない大変な仕事だ。
 けれどこの仕事をこなすことができれば大きな自信になるし、私の縫い師しての名も広まるかもしれない。

「こちらこそよろしくお願いします」

 私はソファーから立ち上がり一礼する。

 小さく上品に手を振るヴァイオレット様に見送られ、ウィリアム様と部屋を後にした。

 王宮を出て屋敷までの帰り道、ウィリアム様は申し訳なさそうに私にヴァイオレット様のことを話してくれた。

「姉上のこと黙っていてごめんね」

「とてもびっくりしました。まさかお妃様が皆さんのお姉様だったなんて」

「コードウェル一族は昔から王族と深い関わりがあるんだけど、それを伝えてセレーナが気負いするといけないから」

 ウィリアム様の話によると、コードウェル一族はあの獣姿をもって、昔から国のために仕えてきており、国も一族との関係をより強固にするために度々血縁関係を結んでいるとのことだった。

「父は現王の従弟で一応王族なんだ。コードウェル家の母に婿入りした形になっているけど」

 確かこの国の宰相が現王の従弟だったはず。政治事に疎い私でもそれくらいは知っている。
 けれど、コードウェル家に婿入りしたということはコードウェル家の当主ということではないのだろうか。あの屋敷には三人しか住んでいないようだし。

「母親はね、何年も前に亡くなってるんだ。僕たち兄弟は成人するまでコードウェル家の北の領地で暮らしていて、父はずっと王宮内で暮らしていた。あの屋敷は時々王都に来た時に過ごすためのものだったんだよ」

「そうなのですね」

「獣姿になる一族がゆっくり休めるように地下部屋が作られたんだ。確かに居心地が良くて、僕たちが成人して王都で仕事をするようになってから兄弟で住むようになったんだ」

 元々、ウィリアム様たちはお父様と一緒に暮らしてはいなかったんだ。
 少し寂しそうなウィリアム様の声が、ただ国と一族の関係を守るために両親は結婚したのだと言っているように聞こえた。

「ご家族のこと教えて頂いてありがとうございます」

「びっくりさせちゃってごめんね。今朝、王宮に行くって聞いてもしかしてと思ったんだけど姉上と会うかわからなかったし言わずにいたんだ」

「マスターも皆さんのことをご存知なのですね?」

「うん。マスターにも僕たちの家のことは黙っていて欲しいとお願いしてたから」

 だからマスターも心配そうにしていたんだ。
 黙って王宮に送り出したことを気にしているかもしれない。次お店に行った時にもう気を遣わないで下さいと伝えよう。

 屋敷に帰るとライアン様とアレン様が出迎えてくれた。
 なんだか心配そうな顔をしていたが三人がどんな身分だろうと私たちの関係は変わらない。

「ただいま帰りました」

「お帰り」
「お帰りなさい」

――――――――――

 その日の夜、仕事に行くと言って向かったのは、綺麗な顔して実はあなどれない姉のところ。

「姉上、セレーナを呼んだこと俺には教えておいて欲しいね」

「あら、私はあなたたちにはフェアにいくつもりよ」

「セレーナの情報を持ってきてるのは俺だっていうのに」

「あなたが一番一族の血筋にこだわっていることはわかってるわ。でも選ぶのはセレーナさんよ」

「誰も選ばない可能性だってある」

「あなたたちがもっと積極的にいかないからよ」

「今はまだ早い。もっと関係を築かないとだめだ」

「まあ、獣姿で子作りしてくれなんてそうそう言えないわよね」
 
 一族の中でも獣に姿を変えられる人間はどんどん少なくなっている。
 それはあの恐ろしい獣の姿を受け入れてくれる人間がほとんどいないからだ。
 姿を変えることのできる子を作るためにはまずあの姿で子作りをしなければいけない。
 兄弟も半ば諦めかけていた。そんな女性に出会うことは難しいと。
 でも俺は諦めてしまうのは嫌だった。だからあの時わざと獣の姿でセレーナの前に出た。反応を見てだめだったらすぐに去ろうと。
 だがセレーナの反応は想像していたもののどれとも違っていた。
「オオカミ」そう言ったあいつは名前などないこの獣姿を知っているようだった。
 興味が湧いた。ウィリアムには怒られたがあの姿を可愛いと言って撫でてくるセレーナを絶対に逃がしてはいけないと思った。

 セレーナはどう思うだろうか。あの姿で子を作りたいと言ったら。怯えて逃げ出すだろうか。
 そもそも経験だってないだろうにいきなりあの姿でなんて無理にも程がある。

 もっと、深い関係を築かなければ。あいつがどこにも逃げ出さないように。どんな姿でも受け入れると言わせれるように。