菅主邸のスーパーエリート執事たちは問題児だらけ!

 私立十六夜学園は、ここら一帯じゃ知らないものはいない中高一貫のスーパーセレブ学校だ。
 そんな学校になぜ、ぼくのような成績も普通で容姿もふつうの平々凡々な男子中学生が在籍できているのかといえば。
 十六夜学園の理事長が、ぼくの祖父だから、としかいいようがない。
 成績はつねに真ん中、スポーツも平均。
 ぼくの特技といえば、なぜか『異様に人に好かれる』ということだけ。
 おじいさまは、そんなぼくに、つねにいうのだ。
「実縫はかならず、この十六夜学園をもっといい学校にできる! わたしは、おまえが素晴らしい学校を作るのを楽しみにしているぞ」
 ぼくは小さいころから、『学校の先生』にあこがれていた。
 小学校からの、将来なりたいものはいまも変わらず、教師だった。
 だからおじいさまは、ぼくに期待してくれているのだと思う。
 だけれど――!
 おじいさまがたまに思いつく、めちゃくちゃなアイデアには、ほとほと困っているのだ。
 だからこそ、スーパーセレブ校である十六夜学園を運営できているのだろうけれど。
 それにしても、今回の思いつきにはどんな反応をすればいいのかと、あきれてしまったのだった。

 ■
 
 菅主邸。玄関ホール。
 学校から帰ってきたぼくを待ちかまえていた彼は、にっこりとほほえんだ。
「えーと、きみは……うちの学園の、桃井李豆くん、だっけ。どうしてうちの屋敷にいるの?」
「あれ? 理事長から聞いてない? ぼく、今日からきみの執事になるんだよ」
 ころころと転がるような、人懐っこい声。
 ゆるくパーマがかかった、ふわふわのショートヘア。
 人懐っこい猫目に、口角のあがった唇。
 十六夜の制服を自分好みに、かわいく着崩している。
 それにしても、彼がぼくの執事? どういうこと?
 あぜんとしていると、李豆くんがぼくに近づいてきたので、つい後ずさる。
「いや、とつぜん何いってるの? ぼくたちは話したことないよね?」
「そうだね。さすがの『人たらしの菅主さま』も、ぼくとは話したことがないはずだよ。だってぼくが、きみのこと避けてたからね~」
「えっ、避けるって……ど、どうして?」
「だってさあ」
 唇をとがらせ、すねてしまう、李豆くん。
「きみって、コミュニケーションしなくても勝手に人が寄ってくるでしょ? なんか気に食わないじゃん! ぼくはがんばって、自分から人に寄ってってるのに、きみは黙ってても人が寄ってくるんだよ? ぼくと真逆の存在なんだよ、きみは」
 コミュニケーション? 真逆の存在?
 ぼくはだんだん、頭が混乱してくる。
 まずは情報を整理させてほしい……。
「きみがぼくの執事って、どういうこと?」
「理事長、ほんとうに教えてないんだね。忙しくて、忘れちゃったのかな~」
 李豆くんが、階段前のソファにぼくを引っぱっていく。
 トン、と押され、ぼくのからだはソファに沈んだ。
 隣に、李豆くんが座ってくる。
「海原実折、火華安蘭、桃井李豆。ぼくをふくめた、この三人の名前、聞いたことある?」
「うん。十六夜学園の十六夜とは、ほぼ満月に近い夜のことをいうんだよね。それになぞらえたのか一部の生徒たちはきみたち三人のことを『淡月組』と呼んでいる……っていうのは、聞いたことがあるよ」
「そうそう。淡月っていうのは、薄くかすんだ月のこと。十六夜の生徒たちは、ほぼ満月に近い月として輝いているけれど、ぼくたちは薄くかすんでる――まあ、ぼくたちはみんなから、そういう目で見られてるってこと」
 李豆くんは、あきらめきっているかのように、鼻で笑った。
 うちの学校は、だいたいが資産家の御曹司、ご令嬢ばかり。
 幼いころから美しい仕草、魅力的な動作、麗しいマナーを学んだ、品行方正、清廉潔白、規律正しい模範生徒ばかり。
 そんな十六夜の生徒たちのなかでは、『淡月組』はあまりにも目立っていた。
「でも、李豆くんがぼくの執事になるっていうのは、どういうことなの……?」
 李豆くんは、人さし指をあごに添えて、思いだすような仕草をする。
「理事長いわく――『淡月組を菅主家の執事として育てあげれば、淡月組にいい評価の内申点をあげられる!』――ってさ。『菅主家の執事経験者』っていう肩書きが、進路にいい影響があるとかなんとかで」
 たしかに、菅主家というのは、何百年と続く歴史のある名家だ。
 菅主家の執事といえば、美しいたたずまいと、ぜったい的な忠誠心で、貴族や資産家のあいだでは、有名だった。
 社交界の晩餐会でも、菅主家の執事が来れば、注目の的となって、「うちの執事と話をさせてやってください」なんていってくる貴族もいたらしい。
 十六夜学園は中高一貫の、エレベーター式。
 つまり、基本的には進路に内申点は関係ないんだけれど……。
 おじいさまは「このままじゃ、いけない」と思ったんだろうな。
 十六夜学園で『菅主家の執事を体験した』とあれば、今後どんな進路になっても大きなアピールポイントになる。
 そうはいっても……むちゃくちゃな発想だけれど。
 ぼくは、あまりの驚きで、すぐに言葉が見つからない。
 まずは、もう一度、確認させてもらう。
「ええと、おじいさまはそれ、本気でいってた?」
「ぼくたち淡月組は、学校側をかなり困らせたみたいだからねえ。先生たちから、理事長にクレームがいったのかもね」
 李豆くんは両手をあげて、困ったようにほほえんだ。
「そういうわけだから、淡月組の三人。ここでお世話になりまーす」
「えっ、三人全員?」
「そうだよ~。ぼくらの両親も『菅主家で住みこみで執事体験してくる』っていったら、めっちゃ喜んでたよ。『ぜひお願いします』ってさ」
「す、住みこみっ?」
「うん。学校の授業が終わったら、ここで執事やるってわけ。部活みたいで面白そうだよね~」
 李豆くんはお気楽ムードだけれど。
 ぼくは、困り果てていた。
 淡月組が執事に。
 しかも三人一気に、ぼくにつく。
 どうして、おじいさまは、ぼくに淡月組をつけたんだろう?
 お父さまかお母さまにつけたほうが、執事たちにとってもいいはずなのに。
 お父さまの執事は、いま同時にぼくのお世話もしてくれている。
 けれど、これからは李豆くんたちになる。
 そこで、ぼくはハッとして、ソファから立ちあがる。
 玄関ホール内の電話の受話器をとり、すぐにおじいさまに電話をかけた。
 おじいさまは、まだ学園で仕事をしていたのだろう、すぐに出てくれた。
「おじいさま。桃井李豆くんがうちに来たのですがっ」
『ああ、実縫。すまない。いうのを忘れていたね』
「それはいいんですが、執事たちをぼくにつける理由は――」
『緊張しなくてもいい! 実縫なら大丈夫だ。まずは、彼らのことをよく知るところからだな。教師というものはな、そうやって生徒たちときずなを育むのだ。頼んだぞ。未来の学園長!」
「ちょっ、おじいさま! あなたはやっぱり――」
 ぶつり、と通話が切れる。
 ぼくは、ため息をつく。やっぱり、そうだったのか。
 おじいさまは最近すぐに、ぼくに『未来の学園長』という言葉を使う。
 ぼくの将来の夢が『教師』であると知ってからは、特に。
 おじいさまがぼくの将来に期待しているのはわかっているけれど、あいかわらずむちゃくちゃな人だ。
 いつのまにか、李豆くんがぼくんの後ろに立っていて、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「よろしくね、主さま――なーんて、呼んじゃおっかな♡」
 李豆くんはそういって、上目遣いにぼくを見あげた。
 まるで、アイドルのような可愛いほほえみだ。
「きみは、それでいいの?」
「もちろん。たぶん、この『執事計画』じたいは、十六夜学園のメンツのためなんだろうけどさ。執事体験なんて、なんか面白そうじゃん?」
 目を輝かせていう李豆くんは、心底そう思っているようだった。
「きみは、どうして問題児なんていわれてるの? 問題児になんてぜんぜん見えないけれど」
「……ぼくのことも知らないのか~。ぼくね、学校のみんなに『コミュニケーションおばけ』なんて呼ばれてるんだよ」
「さっき、ぼくのことを避けてたっていってけど……」
「そうそう。コミュニケーションはぼくの『看板』みたいなものなのに、きみがチート能力ばりに『人たらし』をするから困ってるんだよ~」
 冗談めかしていう李豆くんは、過去のことを思い出すように、視線を泳がせた。
「ぼくね、色んな人とコミュニケーションするようにしてるんだ。それで、先生ともものすごくなかがいいの。だから、ちゃっかり、先生たちにテストでどこか出るのかを聞き出そうとしたり、苦手な問題は出さないでよ、っておねだりしたりしてたんだ~。もちろん、先生たちはいうこと聞いてくんなかったけどね。
 去年はクラスのみんなに、マラソン大会で一位にしてっていって、全員でスピード調整して、ぼくのこと一位にしてもらったりとかもしたなあ。バレて、担任の先生に大目玉くらったよ。
 あと、下校中にすれ違った人ともすぐなかよくなれちゃうしね。だから、登下校中に疲れたら、なかよくなった町の人の家に上がらせてもらって、おやつを食べたり、お茶を飲んだりしてたの。それを他の生徒に見つかって、大問題になっちゃったんだよね。
 他にも数えきれないくらいこんなことしてたら、『淡月組』なんて呼ばれてたんだよね。あはは」
 それは、なんというかすごい能力――と、いっていいのかな。
 李豆くんの人柄だから、コミュニケーション能力がそこまでのちからを発揮するのかもしれないけれど、今までは使いかたを間違えてしまっていたのかも。
 問題児のままでいさせるなんて、たしかにだめだ。
 ぼくは、李豆くんにあらためて向きなおる。
「まあ……とりあえず、自己紹介をしようか。ぼくは、菅主実縫。二年A組。知ってると思うけど、うちの理事長――正宗の孫だよ。よろしくね」
 すると李豆くんが、猫のように目を細めて笑った。
 いつも人とコミュニケーションをするときにしているような、お手本のような笑顔だ。
「桃井李豆でーす♡ よろしくっ。二年C組だから、ぼくたち同い年だね」
 ジーッと、ぼくを見つめて、考えている李豆くん。
 な、なんだか居心地がわるいな。 
 ぼく、李豆くんに観察されているみたいだ。
「ええっと、李豆くん。ほかのふたりは、いつ来るのかな」
「さあ……。安蘭は、理事長と面談だっていってたけど、今日来るのかな。実折はわからないなあ。今日、学校に来てたのかも知らないし」
 李豆くんは、安蘭くんとはなかがいいのかな。
 実折くんについても、ぼくはあまりよく知らない。
 そうで、安蘭くんと実折くんも淡月組なんだろう。
 ふたりはいつ執事として、うちに来るんだろう。
「李豆くん。執事の仕事についてはどう? おじいさまは、研修みたいなことはしてくれたの?」
「いちおうね。菅主家の執事さんがいろいろ教えてくれたよ。とにかくきみのお世話をして、何かあれば守ればいいんだよね?」
 へらりと笑い、ぼくの肩に、自分の肩を寄せてくる。
「まかせて? さっきは、きみのこと気に入らないなんていったけど……これから、ここで住みこみで、執事をやるわけでしょ? コミュニケーションは得意だから! いまが四月で、執事をやるのは卒業までだから、あと二年だけだもん!」
 自信満々にいう李豆くんに、ぼくは苦笑してしまう。
 いや、それって……うわべだけの付き合いをするって宣言されたようなもの、だよね……。
『頼んだぞ。未来の学園長!』
 さっきのおじいさまの調子のいい言葉が、何度も頭のなかをかけめぐる。
 はあ、二年か。
 な、長いなあ……。
 そのとき、厨房のほうから――パリーン! というお皿のわれる音がした。
「あーらら。椎名くんかなあ?」
 李豆くんが、さっきよりも少し真面目な顔をしていう。
 ぼくは、思わず目を見開く。
「え? きみが、どうして……そんなこと知ってるの?」
「まだ、厨房見習いなんだっけ?」
 李豆くんが、不敵に笑う。
「主さま。椎名くんが心配だよね、見に行こう」
 ぼくは驚いたけれど、すでに李豆くんが走り出していたので、それを追いかけた。
 厨房につくと、椎名くんが泣きそうな顔で、われたお皿をホウキで掃いて、チリトリに集めていた。
 ぼくたちが駆けつけたのを見て、申し訳なさそうにうなだれる。
「み、実縫さま! 申し訳ありません。オレ、またわってしまいました。今月で三枚目、ですよね……。オレ、不器用がなかなか治らなくて、ほんとうに申し訳ありません……」
 しょぼん、と眉をさげる椎名くん。
 お皿くらい別にいいのだけど、椎名くんはかなり落ちこんでいる。
 椎名くんはこの屋敷に来てから、たしかに何枚も皿をわっているからなあ……。
 でも、今月は特にわっている。どうしたんだろう?
 すると、李豆くんが椎名くんの肩をなげますようにポン、と叩く。
「李豆くん。主さまのために、パイ作りの研究してるんだもんね~」
「え?」
 ぼくは目を丸くして、椎名くんを見る。
 椎名くんが、恥ずかしそうに顔を赤くする。
「李豆くん、それどういうこと?」
「主さま。アップルパイとか、ミートパイとか……いろんなパイがすきなんでしょ?」
「うん、そうなんだ。昔、おばあさまが焼いてくれたアップルパイにハマってから、いろいろ食べるようになったんだ」
「だから、椎名くん。主さまに喜んでほしくて、パイ作りの練習してるんだってさ。だから、お皿をたくさん使ってるんだよね~」
 椎名くんが、申し訳なさそうにうなずく。
 ぼくは、ふしぎそうに李豆くんを見つめる。
「……屋敷に来たばかりのきみが、どうしてそんなことを?」
「主さまが帰ってくるまえに、ぼくは屋敷の人たちとすでにコミュニケーションをとってたんだよ。これから執事になるわけだし、使用人のみなさんと早くお近づきになりたくてさ。椎名くんとも、そのときなかよくなったんだよね?」
 椎名くんにニコっと笑いかける、李豆くん。
 李豆くんは何かをうながすように、椎名くんに視線を送り続けている。
 すると椎名くんがハッとして、はじかれたように、ぼくに駆け寄った。
「実縫さま! オレまだ……見習いだし。だからせめて、実縫さまのすきなものだけでも、上手になろうと思ったんです。でも、お皿をわるのは、だめです……。オレ、なんとおわびしたらいいのか……と、とにかく弁償します! だから、クビにしないでください……!」
 椎名くんは、お父さまが雇っている、うちの正式な使用人。
 内申点のため、部活動のように執事をする李豆くんとは違い、きちんとお給料も出ている。
 お給料からお金を引いて、お皿を弁償したいといっているんだろうけれど。
 ふと調理台の上に椎名くんが作った、パイたちを見つけた。
 こんがり焼けたアップルパイ、香り豊かなブルーベリーパイ、ジューシーな照りのあるミートパイ。
 この厨房のにおいだけで、幸せな気持ちがいっぱいに広がるみたいだ。
「椎名くん。このパイ、食べてもいいかな?」
「えっ。でも……実縫さまの好みの味かどうかもまだ研究しきれていないんです。は、はずかしいですから……その……」
「だいじょうぶ。ぼくは椎名くんのがんばりを味わいたいだけだよ」
 そして、パイをひと切れ取って、ぱくりと食べる。
「うん! おいしい!」
「ほ、ほんとですか?」
「もちろん」
 おばあさまのパイとはだいぶ違う味付けだけれど、これだけでもおいしいパイだとわかる。
「椎名くん。これからも、きみのパイを食べさせてほしいな」
 見ると椎名くんは、涙を浮かべている。
 ぼくはぎょっとして、目を丸くする。
 李豆くんがニヤニヤしながら、中腰になって、ぼくを見あげてきた。
「主さまが『人たらしの菅主さま』といわれる理由がわかったよ」
 ぼくは、苦笑いをする。
「そ……そんなに変なことをいったかな」
「変じゃないよ。まあ、ぼくにはマネできないコミュニケーション方法だね。どうやるのか、教えてよ」
「困ったな。コミュニケーションなんて、意識したことないんだけど」
「ふうーん」
 李豆くんはふてくされたように、頭の後ろで腕を組んだ。

 椎名くんに「ケガをしないようにね」といいのこし、ぼくたちは厨房を出た。
 李豆くんが後ろから着いてくる。
「主さま。明日、いっしょに登校してもいい?」
 自然に、隣に並んでくる李豆くん。
「えっ……。ぼく、運転手の送迎だから。あっ、いっしょに乗っていく?」
「ううん、歩いて行こうよ~。ね?」
 甘えるように見あげてくる李豆くんに、ぼくは何もいえなくなる。
 すると、李豆くんがくすくす笑う。
「あははっ。ぼくのコミュニケーション方法はどう? 主さま」
「ええっと、うまくいえないけれど……李豆くんのいうような、意識してコミュニケーションをとる方が、ぼくにはよくわからないからさ。しっかりと分析して、『こうやって人と関わろう』とおもっても、ふつうはむずかしくてうまくいかないんじゃないかな。それを実践して、うまくやれている李豆くんは、かなりすごいとおもうよ」
 すると李豆くんは、甘えたような顔から、ふっと真面目な顔つきになった。
 目を丸くして、少し驚いているようだった。
「主さまは、優しいね~。ほんとうに、そうおもってくれるの?」
「うん、おもってるよ」
 ダイニングルームに着くと、さっそく李豆くんがティーワゴンを引いてきて、ぼくにアールグレイを淹れてくれる。
 ほんとうに、ちゃんと執事の仕事、勉強してきてくれたんだな。
 きれいな仕草で、アールグレイとチョコチップクッキーが乗った皿が、ぼくの前に出された。
 香りを楽しみながら、一口飲む。うん、おいしい。
「主さまはパイの他に、チョコレートもすきなんだよね? 主さまの好感度を上げるために、ちゃんとクッキーにチョコチップを混ぜて焼いたよ♡」
「えーと。好感度って……わざわざいわなくてもいいんじゃない?」
 なんだかわざと、いっているように聞こえて、ぼくは戸惑う。
 すると李豆くんは、意外なほどにきっぱりと答えた。
「主さまなら、ぼくのこういう一面を見ても、引かなさそうだとおもったんだ」
 これが、李豆くんのほんとうの顔ってことなのかな。
 おもったことは、はっきりいうタイプ?
 すると李豆くんは、ダイニングルームの電話の受話器をカチャン、と取りあげた。
 うちの運転手に電話をするつもりらしい。
「あっ、もしもし~。明日の主さまの送迎、いいから! ぼくといっしょに歩いて登校するって! うん、そう。じゃあ、よろしくね~」
 わあ、もう運転手とも仲良くなってる!
 通話が終わると、李豆くんが満面の笑みを浮かべた。
「李豆くん。ぼくまだ、歩いていっしょに登校するって、いってないんだけど」
「たまには歩かないと健康にわるいよ、主さま♡」
 有無をいわさない、アイドルのようなかんぺきな笑顔。
 いや、なんていえない雰囲気だ。
 なるほど。この強引さも、淡月組の桃井李豆たるゆえんなのかな。
 ぼくは、頭を抱えそうになりながら、紅茶をもう一口飲んだ。

 ■

 次の日、李豆くんの宣言どおり、ぼくは歩いて登校する。
 景色をじっくり見ながら登校するのは久しぶりのことなので、新鮮な気持ちだ。
 桜はもうほとんど散ってしまったけれど、まだ咲いているところもあった。
 車の送迎ばかりだと、いつもの町の風景にもいままでは気づかなかったところに気づく。
「あれ、あんなところに知らない雑貨屋ができてる」
 古いアンティークの時計や、食器が並ぶセンスのいい店だった。
 うちの屋敷は美術コレクターでもあるおじいさまが選んだものが多いけれど、たまには自分で選んでみるのも面白そうかも、なんておもっていると。
 雑貨屋を見て、李豆くんのテンションが一気にあがった。
「わあ! ほんとじゃん~! いつのまにできたんだろう?」
「李豆くんもこういうのすきなんだね」
「うん! 主さま。今度、いっしょに行かない?」
「李豆くんがいいのなら、いっしょに行きたいな」
「やった♡ うれしい~! ちゃんとスケジュール空けてよね?」
 ぼくの顔をのぞきこんでくる、李豆くん。
 最初は、ぼくの印象がわるそうだったのに、遊びに誘ってくれるなんて。
 少しは、心を開いてくれたのかな。
「いっしょに出かけたほうが、好感度に繋がりそうだもんね♡」
 うーん。やっぱり、気のせいか。
 李豆くんが歩いていると、ひんぱんに町の人たちが話しかけてくる。
 町中の人と顔見知りなんじゃないかとおもうほどだ。
 コミュニケーションおばけの異名で、学校中に名前をとどろかせているだけはあるなあ。
 学校に着くと、なにやら校門の近くが騒がしい。
 生徒たちの人だかりができている。
「菅主さまだ!」
 誰かの声があがると、みんなが一斉にぼくのほうを見た。
「ど、どうしたんだろう?」
「あれ、あいつ……昨日、主さまの屋敷に来ないとおもってたら……」
 李豆くんが甘い顔をほどいて、目つきをするどくする。
 あいつ、って誰だろう?
 すると、人だかりのなかの一人が勢いよく近づいてくる。
 ぼくよりも背が高い。
 ストレートの黒髪を肩のあたりで切りそろえている。
 涼し気な瞳に、不機嫌そうな口もと。
 制服のネクタイはゆるんでいるし、シャツも学校指定のものじゃない。
 火華安蘭。
 淡月組のひとりだ。
 安蘭くんは、ぼくを高い位置から見おろしてくる。
「理事長が、あんたをつれて来いってさ。理事長室に」
 安蘭くんは、最高潮に機嫌がわるそうだ。
 李豆くんが、ぼくの前に出て、安蘭くんをジッと見る。
「アラ~ン! 朝っぱらからなんなの? この人だかりは、きみのせい?」
「知らねえよ。歩いてやつに片っ端から『理事長の孫はどいつだ』って聞いて回ってたら、こんなになってた。見ろよ、こいつら動物園のライオンでも見るような目だぜ」
 おかしそうに唇のはしを吊りあげる、安蘭くん。
「安蘭。どうして昨日、菅主のお屋敷に来なかったの? 理事長にいわれてたでしょ? 淡月組は、学校終了後に菅主邸に集合って!」
「うるせえな。昨日は……進路の話で、親がごちゃごちゃうるさかったんだよ。だから、行けなかっただけだ。今朝、理事長にその件をいわれてたところだよ。そんんで、理事長も孫を呼んで来いっていわれたんだ」
 安蘭くんが、眉間をぎゅ、と寄せる。
「てか、みお……いや、あいつも……行ってねえんだろ」
「実折も来てないよ。はあ……淡月組ってかんじだね~」
 両手をあげて、やれやれというポーズをする李豆くん。
「安蘭くん。おじいさまが、ぼくのことを呼んでるの? なんの用事で?」
 すると安蘭くんは、とたんに、ぼくの後ろえりを掴んできた。
「あーもう。とりあえず、来い。桃井もだ」
 李豆くんが、「ちょっと!」と叫ぶけれど、安蘭くんは無視して歩いて行ってしまう。
 ぼくは必然的に、彼に引きずられていく。
 まるで、ライオンに捕まった獲物の気分だ……。

 理事長室に着くと、デスクに座っていたおじいさまが、待ちかねたように立ちあがった。
「実縫、おはよう。いい朝だな」
 ぼくは、おじいさまのいつもの調子にあきれてしまう。
「火華くん。実縫たちを呼んできてくれて、ありがとう」
 しかし安蘭くんは、ふい、とそっぽを向いてしまう。
 おじいさまは気にするふうもなく、話しはじめた。
「きみたちを呼んだのは、頼みがあるんだよ」
「頼み?」
 おじいさまはそういって、ぼくたち三人をソファに座らせた。
 その向かいに自分も座ると、プロジェクターにあるものを映し出した。
『現代美術家 間藤ドヲプ シークレットパーティ』と書かれた、招待状だ。
「これは?」
「見ての通りだ。明日の土曜日、間藤ドヲプ氏のシークレットパーティがある」
 間藤ドヲプといえば、この理事長室にも一枚、絵が飾られている。
「わっ! ぼく知ってるよ。きれいな朝焼けを描く画家としてSNSでバズったんだよね。今ではフォロワー十万人以上の有名アーティストだよ」
 李豆くんが、ソファの後ろの壁にかけられた、間藤ドヲプの絵を指さす。
 朝焼けに染まった、雄大な海の絵『桜色の海』。
 少し白んだ朝焼けは、ピンク色となり、映し出された海も美しいピンクに染まった、ファンのあいだでは有名な絵だ。
「そのとおり。そこで……」
 もったいぶるように、おじいさまはパチンと指を鳴らした。
「淡月組の執事であるきみたちと、その主人である実縫に、わたしの代わりにパーティに出席してもらいたいんだ☆」
 おねだりするように、両手をあわせる、おじいさま。
 またこの人は、とつぜんの思いつきをムチャぶりしてくるんだから!
「いやいや、おじいさまが招待されたのに、なぜぼくたちが!」
「実は、ほかの資産家のパーティがあったんだが、管理が甘くて、ダブルブッキングしてしまってね」
「つまり、二重に予定をいれてしまったんですね……」
 こんな一流の学園を経営しているにも関わらず、かんじんなところでドジをしてしまうんだからなあ。
「間藤氏のほうには、丁重に謝罪をすませ、埋め合わせをすると約束したよ。さらに明日の件も、確認済みだ。『正宗さんのお孫さんと、菅主家の執事の卵たちなら大歓迎です』とむしろ喜んでもらえたよ」
「しかし……」
 ぼくは、李豆くんと安蘭くんを振り返る。
 ふたりとも、やはり不安そうな顔をしている。
 理事長の代役をするんだもんね。そりゃあ、浮かない気持ちにもなるよ。
 すると、おじいさまがデスクチェアから立ちあがり、李豆くんと安蘭くんの前に立った。
「淡月組なんていわれているが、きみたちには素晴らしい才能がある。だからこそ、実縫の執事に選ばれたんだ。実縫、きみは昨日、桃井くんの特技を見たかい?」
 ぼくは、うなずいた。
「どう思った?」
「すごいな、と思いました。屋敷に来てすぐに、ほとんどの使用人たちと顔見知りになって、みんなとコミュニケーションをして、相手の話をしっかり聞いて……ぼくにはできないことです」
 李豆くんが照れたように、顔を赤らめ、うつむいた。
 おじいさまが、にっこりとほほ笑む。
「菅主家の主と執事は、一心同体。お互いを助け合う心が大切だ。いつ、いかなるときでも、共に歩むこと。今回のパーティで、よりきみたちの絆が深まることを期待しているぞ」
 とたん、ぼくはピンとくる。
「それが目的なのですか? まさか、わざとダブルブッキングをしたんじゃ……」
 おじいさまは表情を変えず、無言のままだ。
 ほんとうに、ちゃっかりした人だ!
 すると、安蘭くんがスッと前に出た。
「ほんとうに執事になれば、内申点をくれるんだよな」
「もちろんだ」
「……なら、やるしかねえか。執事」
 おじいさまが満足そうに、手を叩いた。
「シークレットパーティは、ドレスコードが必須だ。ちゃんとチェックして、しっかりと着飾って行きたまえ」

 理事長室を出たあと、ぼくはあわてて、安蘭くんに駆け寄った。
「安蘭くん……執事になること、迷っているみたいだけどいいの?」
 すると安蘭くんは、不愛想にしながらも、ぼくを高い身長で見おろした。
「行きたい大学があるんだ……でもたとえエレベーター式でも、内申点を稼いでおかねえとマズいって、知らなくてな。いつのまにか淡月組なんていわれてたから、まじで納得いかねえけど」
「なんで安蘭くんは、淡月組に?」
 すると安蘭くんは、また不機嫌そうに顔をゆがめてしまう。
「……知るかよ」
「ご、ごめん、聞いちゃいけないことだったんなら、謝るよ」
 しかし、安蘭くんはむすっとしながらも、言葉を続けてくれた。
「……オレは、昔から体力がある。成長するにつれて、どんどんからだも大きくなって、それにつれて、体力も腕力もあがっていって。気づいたら、自分のちからのコントロールがむずかしい状況になってた。
 だから、校庭の清掃活動のときも、他クラスが育ててた花をダメにしたりとか。
 美術の授業で、クラスメイトが作った作品をあやまって壊してしまったりとか。
 そんなことばかりだった。でも、やさしくしゃべるのが苦手で、謝ろうとしても、なぜか怒ってると思われてばかりだったんだ。
 別にそれでもいいか、ひとりのほうが楽だし、と思っていたら、いつのまにか淡月組とかいわれるようになってたな」
「そんな。それじゃあ、誤解されたままってこと?」
「別にいい。オレ、他にやりたいことあるし。学校の連中に気に入られたいわけじゃないから」
「他にって……それだけ体力があるなら、スポーツ選手とか?」
 すると、安蘭くんの表情が一変する。
 ジロリと、ぼくをにらみつけてきた。
 あれ? なんで? ぼく、また変なこといっちゃったのかな。
 おろおろしていると、李豆くんが甘ったるい声でいう。
「主さま~。安蘭は将来、フィギュアスケートのオリンピック選手として活躍を期待されていたんだよ。『体力無尽蔵アスリート』なんて呼ばれちゃってるんだよね?」
「ええ! フィギュアスケート? すごい!」
「でも、ほんとうはフィギュアスケーターじゃなくて、彫刻家になりたいんだよね? だから、親と揉めてるんだよ。それで、こんなにすさんじゃったってわけ」
「チッ」
 今度は李豆くんをにらみつける、安蘭くん。
 そうか、他にやりたいことっていうのは、彫刻家だったんだ。
「ちからのせいでモノを壊しちゃうのは仕方ないとしてもさ、親に反抗して、学校サボったりもしちゃってたんでしょ? 行きたい美大に行けなくなったら、意味ないのにさ〜?」
「うるせーよ!」
 李豆くんがからかうので、安蘭くんの機嫌はどんどんわるくなるばかりだ。
 ぼくは、「まあまあ」と、ふたりをなだめる。
「とにかく安蘭くんも、卒業まではうちの執事みたいだから……えっと、いっしょにがんばろうね。執事のことで困ったことがあったら、気おわずに相談してくれていいから」
 すると、安蘭くんはムッとした顔をする。
 そして、胸に手を当てて、華麗に礼をした。
 フィギュアスケート選手の演技そのものの、美しいお辞儀。
「はい。主さま。内申点に変えても、しっかりやらせていただきます」
 えっと、これは……ぼくに聞かなくても、ちゃんと執事としての勉強はしてきてくれたってことかな。
 しかも、執事をやるのはあくまで内申点のためで、ぼくに心から仕える気はないってことらしい。
 李豆くんと安蘭くん、ふたりに同じ態度をされ、ぼくはもう吹き出してしまう。
「ふふっ、はいはい。わかってるよ」
 将来、教師になったら、ひとつのクラスに問題児ふたりいるなんて、当たり前のことなんだろうな。
 ぼくはもう、とことんつき合うことにした。
 こうなったら卒業までに、淡月組全員と、菅主家の歴史でいちばん絆の深い主と執事になってやる!

 ■

 そして、次の日の土曜日。十七時。
 三つ星ホテルのパーティフロアが、シークレットパーティの会場だった。
 ぼくたちは、招待状に書かれていたドレスコードに身を包んでいる。
 このシークレットパーティでは、『間藤ドヲプが描く朝焼け色』の衣装に身を包むのがマナー。
 ぼくをはじめ、李豆くんも安蘭くんも、桜色のスーツを着ている。
 安蘭くんは照れくさそうに、いや、むしろいやそうにしながら、ネクタイをいじっている。
「こんな色の服を着たの、はじめてだ」
 さっきからずっと、そわそわしている安蘭くん。
「安蘭くん、どうしたの?」
 ぼくが聞くと、あいかわらず不機嫌そうにして着ているスーツの裾をつまんだ。
「オレに似合ってない。変だ。早く着替えたい」
「……桜色、苦手? 安蘭くんは、どんな色がすきなの?」
 彼は彫刻家志望、アーティストだもんね。
 色に、こだわりがあるのかも。
 すると、安蘭くんはニヤッと嬉しそうに笑う。
「そりゃあ、赤だな。作品にもよく使うんだ。絵の具の減りもいちばん早い」
「赤か。たしかに、クールな安蘭くんにぴったりだね」
「えっ。そ、そうか?」
 ぼくは、近くにいたパーティの給仕を引きとめて、二言三言確認する。
 そして、すぐに安蘭くんのもとに戻った。
「向こうのテーブルにバラが飾ってあったんだ」
 給仕係に確認を取って、赤いバラを一本、もらってきたのだ。
 安蘭くんのスーツの胸ポケットに刺してあげる。
「このバラを、ラッキーアイテムか何かだと思って。これで……少し、がまんしてもらえる? ごめんね」
 すると、安蘭くんは呆れたように息をついた。
「……バラの花を執事にプレゼントって。主がすることかよ」
「えっ。いやだった?」
 ぼくがあわててバラの花に手を伸ばそうとする。
 すると、今まで黙って見ていた李豆くんが、ぼくの肩にあごを乗せて笑う。
「主さまは、やさしいね。安蘭のわがままにも、付きあってあげてさ」
「おまえは黙ってろっ」
 安蘭くんが、ぼくの手をやわらかく払いのけた。
「別にこのままでいい」
「そ、そう? よかった。李豆くんは……」 
「ぼくはふだんから、桜色の服着てるから気になんないよ」
「そっか。安心したよ」
 おじいさまのムチャで、むりやりきたパーティだからね。
 執事になったそうそう、いやな思い出を作ってもらいたくない。
「主さまも似合ってるよ。桜色♡」
「そうかな……自分ではよくわからないや」
「似合ってるよ~! こんどあの雑貨屋に行くときは、桜色のシミラールックで行かない?」
「な、なにそれ?」
「シミラールックってのはね~、コーデの色や形とかをそろえて、ふたりの雰囲気をあわせるコーデのことで……」
 そのときだった。
 会場の照明が落ち、舞台にスポットライトが当たる。
 間藤ドヲプさんが歩いて来て、スタンドマイクの前に立った。
「みなさま。本日はわたしのシークレットパーティにお越しくださいまして、まことにありがとうございます。今回のシークレットパーティでは、わたしの新作のお披露目やちょっとしたオークションも予定しておりますので、お食事を楽しみながら、参加していってください」
 間藤ドヲプの新作のお披露目と聞き、会場がざわつく。
 まわりの声から、間藤さんの新作が披露されるのは数年ぶりのことらしい。
 だから、みんなうれしそうにしているんだな。
「なんか、おかしくないか? どうしたんだ、あれ」
 会場の男性のひとりが、戸惑ったような声をあげた。
 舞台の天井から、黒い紙吹雪のようなものが降りはじめた。
 間藤さんが、動揺しているので、予定にないことなんだろう。
 紙吹雪が一枚、ぼくたちの足元に落ちてくる。
 それは手に取ると意外と大きく、トレーディングカードほどの大きさだった。
『間藤ドヲプ。十六夜学園に絵を飾るな。さもないと、パーティの邪魔をする』と書かれている。
 ぼくは驚いた。
 こんなものいったい誰が?
 そもそも、どうして十六夜学園の名前が出てくるんだ?
 会場は一気に混乱状態におちいり、パーティは一時、中断することになってしまった。

 ぼくたちは、会場の壁際に集まり、どうしたものかとうなだれていた。
「主さま。理事長に電話したほうがいいんじゃない?」
「そうだね。連絡してみようか」
 スーツのポケットからスマホを取り出そうとしたとき。
「その必要はないですよ。もうオレがしておきました」
 声をかけてきたのは、小脇にノートパソコンを抱えている、ぼくたちと同い年くらいの男子だった。
 片目が隠れるほどの、前髪重ためのショートカット。
 しかし、意志の強い瞳が、ぼくたちを見おろした。
 ドレスコードの桜色のスーツをスマートに着こなしている。
「実折! きみねえ、いままでどこ行ってたの?」
 李豆くんが、腰に手を当てて怒りはじめる。
 実折くんはふう、と息をついた。
「理事長命令。先回り。調査」
 三つの単語を羅列しながら、パーティ会場を出て行こうとする。
「おい、待て。実折!」
 今度は安蘭くんがイラ立ちながら、実折くんを追いかけるので、ぼくと李豆くんもあわてて小走りになる。
 実折くんが、安蘭くんを見あげる。
 眉間に深いシワが刻まれている。
「……着いてこないでください」
「おまえ、淡月組は執事になれって理事長からのお達しだろ。ひとりで行動するつもりか」
「オレは、きみがいる限り、菅主家に行くつもりはありません。執事としての行動は最低限させていただきますがね。なのでこうして、この会場にもいたでしょう」
「おまえな……!」
 な、なんだかこのふたり、特に仲がわるくないか……っ?
 すると、李豆くんが耳打ちしてくれる。
「このふたり、幼なじみらしいんだけど、過去に何かあったらしくてさあ。実折のほうは、安蘭を特に毛ぎらいしてるんだよね」
 そ、そうなんだ……!
 海原実折くん。三人の執事のなかでも特にクセありだな。
 ひとりで別行動する執事なんて、聞いたことないよ……。
 う~ん、困ったことになったぞ……!