無能の花嫁は余命僅かの鬼狩り当主に溺愛される

彩芽様は香炉に息を吹きかけると、ニヤッと笑った。
香炉からは甘い花のような香りと血のような匂いが混ざっていて、吐き気がしてくる。

「これ鬼が寄ってくる邪香(じゃこう)よ。さっき私の血を混ぜて効果を強めたから、次はもっと邪悪な鬼が寄ってくるはずよ」

「な……んてことを……」

「アンタが悪いんだからね!“無能モノ”の癖に桜天女の生まれ変わりで天授の力を持ってる? ふざけないでよ。千隼様はあたしのモノなんだから!」

鬼のような形相と、こうまでして私を殺そうとする彩芽様に恐怖から声が出ない。
彩芽様が目の前にたち、香炉をふって邪香の匂いを私につけると同時に、目の端に何かが降り立った気配がした。
それは人型をした黄色の瞳をもつ鬼。

(また鬼が……それも今度はツノが……)

「あはは、四本鬼だわ~、次は薪なんかじゃ歯が立たないわね」

彩芽様は高らかに声をあげて笑いながら薪を草履で蹴とばすと、温度のない瞳で私を見下ろした。そして四本鬼に向かって大声をだした。

「この女がお前の獲物よ。さっさと食い殺しなさい!」

「グル……この女旨いか?」

「さぁね。“無能モノ”だから味は保障できないけど」

「グルルルル、オレうまい女好物。まずいの要らない」

四本鬼は紫色の髪の毛を揺らしながら、吟味するように私の目の前を行ったり来たりしている。

「何してんのよ! さっさとこの女を食えって言ってんの! “癒しの光姫”と呼ばれるアタシの言うことが聞けないの!」

四本鬼のとんがった耳がピクリと動いた。

「……癒しのお姫様うまそう」