無能の花嫁は余命僅かの鬼狩り当主に溺愛される

「ここは私がどうにかするから、早く逃げて」

「は、はい……」

私は薪を刀に見立てて両手で構える。母が生きていた頃、最低限の身を守れるようにと剣術の基本を教えてくれたのだ。

(十年も稽古してないから……できるかわからないけどやるしかない!)

鬼たちはよだれを垂らしながら四足歩行で、ジリジリと近づいてくる。そして先頭の一本鬼がこちらに向かってきたのを見て、私は薪を勢いよく振り下ろした。

「ぎゃぁああっ」

振り下ろした薪はは見事、鬼の角に見事命中し鬼は黒い砂となって崩れ去る。もう一体も冷静にタイミングを見計らって二つの角に打撃を与えれば黒い砂と化した。

「はぁ……っ、やった……」

鬼を倒した喜びよりも束の間、遅れてやってきた恐怖から腰を抜かした私は座り込んだ。

「へぇ、意外と図太いのね。”無能モノ“の癖に」

聞き覚えのある声色に振り返れば、香炉を抱えた彩芽様と目があった。

「彩芽様、どうしてここに……」

千隼様は街での一件を機に、屋敷に戻ってすぐに光小路家に屋敷への出入り及び今後一切の関りを断絶する書状を送ったのを私は知っていたからだ。

「ふん、どうしてここに来たかって? アンタに死んでもらうために決まってんじゃない」