無能の花嫁は余命僅かの鬼狩り当主に溺愛される




「わぁ……すごい」

目の前には、見たことのないお菓子や美しい色とりどりの着物、家具屋や写真館などが立ち並んでいる。

「街へくるのははじめてか?」

「はい、あまり……外出することがなかったので」

私は千隼様に気遣われたくなくて嘘をついた。本当は“無能モノ”として家門の恥とされていた私は極力、屋敷から出ることを禁じられていたから。
でもきっとそのことを知れば、お優しい千隼様は心を痛めると思ったからだ。

「ここではなんでも欲しいものが手に入る。行こう」

「え、どちらへ?」

「着いてからのお楽しみだ」

千隼様が当たり前のように私の手を取ると、迷いなく歩いていくが私の視線はすぐに下を向く。

通りすがりの人々が千隼様を見て、羨望の眼差しを向けるのもつかの間、すぐに隣の私を見て驚いたような表情を浮かべているから。
きっと私のような“無能モノ”を連れ歩いている千隼様に驚きが隠せないのだろう。

(やっぱり場違いだったわ……)

千隼様からのお誘いが嬉しくて舞い上がっていたが、このままでは千隼様に“無能モノ”の妻を持つ夫として恥をかかせてしまう。
私はふいに歩みをぴたりと止めた。

「千隼様……やっぱり屋敷に戻りましょう」

「なぜだ?」

「皆が……こちらを見ております。“無能モノ”の私がいれば千隼様に恥をかかせてしまいます」

「なんだそんなことを気にして俯いていたのか」

そういうと、千隼様は私の両ひざに腕を差し込みあっという間に抱きかかえる。

「きゃ……っ、千隼様……っ」