無能の花嫁は余命僅かの鬼狩り当主に溺愛される

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千隼様に離縁を告げられ、食事はもちろん喉を通らなかった。そこで私は自分用に作った夕餉をタイミングよくやってきた野良狐のマルにあげたのだ。

「きゅーん」

「マル、お前はいい子ね。良くお食べ」

マルとの出会いはこの嫁いできてすぐのことだった。ひどく衰弱して縁側の下で蹲っているところを見つけた私は放っておけず、自分の部屋の押入れにかくまって看病したのだ。

一か月ほどで元気になったマルは山に戻ったようなのだが、その後も時折私に会いにくるようになった。
ちなみにマルと言う名は真っ黒の毛並みに額に丸いお月様のような模様があることからそう名付けた。

「おいしい?」

「きゅ」

「無駄にならなくてよかったわ」

屋敷には千隼様の方針で下女は数人しかいない。その下女たちも旦那様に見向きもされていない“無能モノ”の私を蔑んでいるため、食事は自分で作っている。

マルは気分屋で、毎食来ることもあれば三日にふらりとやってくることもあるのだが今日は本当にタイミングが良かった。
とてもじゃないが離縁を突きつけられて食事ができるほど、太い神経は持ち合わせていない。

「今日はお魚じゃないけど、これはこれでたまにはいいでしょう」

「きゅぅ~」

マルが食べやすいようにみそ汁に浸した白米を差し出すと、マルは小さな口を上下させながらあっという間に平らげていく。