無能の花嫁は余命僅かの鬼狩り当主に溺愛される

「そんな怖い顔なさらないでくださぁい」

「早く言うんだ。真白になにしようとした?」

「それは、ま、真白さんの髪にハエがいたので払ってさしあげようと」

「ハエだと?」

「ねぇ、そうよね? 真白さん」

ぶたれそうになったと答えたところで、誰が無能モノの私を信じるだろうか。
千隼様の切れ長の赤い瞳が確認するように彩芽様から私に移される。私は拳で着物をぎゅっと握りしめた。

「……はい、そうでございます」

「そうか」

ようやく手首を離した千隼様に、今度は彩芽様が媚びるように上目遣いで見つめる。

「千隼様の気迫でハエも恐れをなして逃げちゃったようですね~」

「……」

「あ、そういえば帝都の鬼は大丈夫でしたの?」

「ああ、問題ない」

「さすが“烈火の神”ですわ。でも瘴気は大丈夫ですの? いまから私が浄化を……」

「その必要はない。戻る前に帝都で浄化してもらった」

「さ、左様ですか。では留守の間、浄化を頑張ったご褒美に、彩芽をお食事に連れてってくださいませ~」

彩芽様が甘えた口調で背の高い千隼様を見上げる。
するりと白い綺麗な指先が千隼様の腕に触れようとして、その指先は千隼様の大きな手で払いのけられる。