律が倒れたのは、十二月のはじめだった。
最初に連絡が来たのは昼休みだった。
病院
来られる?
その二行を見た瞬間、
胸の奥が冷たくなる。
私は先生に早退を伝えて、
ほとんど何も考えないまま駅へ向かった。
病院へ着いたとき、
律は検査室の前の椅子に座っていた。
去年みたいに意識を失って運ばれたわけではない。
でも、顔色は明らかに悪かった。
私に気づくと、律が少しだけ笑おうとした。
「ごめん」
その声がかすれていた。
「大丈夫?」
聞きながら、
大丈夫じゃないことは分かっていた。
律は首を横に振るでもなく、
ただ小さく息をついた。
「検査、また増えるって」
それだけで、十分だった。
しばらくして呼ばれて、
律は両親と一緒に診察室へ入っていった。
私は外の椅子に座って、ひたすら待った。
時計の針が進む音は聞こえないはずなのに、
時間だけがやけに大きく感じる。
私はスマホを見て、閉じて、
また見た。
何もできない時間だった。
それでも、頭の奥では
数字だけが勝手に動いていた。
十八。
十九。
二十。
二十三。
そこまで並べたところで、
私はぎゅっと目を閉じた。
やめて、と思う。
まだ分からない。
まだ何も決まっていない。
でも、決まっていないことのほうが
前よりずっと怖かった。
診察室の扉が開いたのは、
それからかなり経ってからだった。
先に出てきたのは律のお母さんだった。
泣いてはいない。
でも、顔が白かった。
その顔を見た瞬間、
私はもう分かってしまった。
律は少し遅れて出てきた。
目が合う。
それだけで、
何を言われたのかだいたい分かった。
病院の外へ出て、
前に一度座ったことのあるベンチまで歩いた。
冬の空気は冷たくて、
息が白い。
律はベンチに座ると、
しばらく黙って前を見ていた。
私は隣に座る。
聞きたくない。
でも、聞かなければいけない。
やがて律が言った。
「戻ってきてるって」
私は膝の上で手を握る。
戻ってきてる。
その言葉は、ひどく残酷だった。
良くなったはずのものが、
また戻ってきている。
「前より進むの、早いかもしれないって」
私は何も言えなかった。
律は続ける。
「治療、やるけど」
「去年みたいに持ち直す保証はないって」
保証。
私はその言葉を頭の中で繰り返す。
ない。
去年は、あったわけじゃない。
ただ、起きた。
そして、私はその理由を知っている。
「……そっか」
やっとそれだけ言う。
律が小さく笑う。
笑おうとして、うまく笑えていない顔だった。
「またかよ、って感じ」
私は首を振る。
「そんなふうに言わなくていい」
律は少しだけ目を伏せた。
「でも、俺も意味わかんない」
前にも聞いた言葉だった。
でも今は、前よりずっと静かで、
前よりずっと疲れていた。
私は律の手を見る。
去年、何度も握った手。
その手を今すぐ取りたかった。
でも、そうしたら何かが決まってしまいそうで、
その一歩が踏み出せなかった。
その日の帰り道も、
私はほとんど何も話せなかった。
律は「また連絡する」と言った。
私はうなずいた。
また明日、とは言えなかった。
家に帰って、
部屋の電気を消して、
ベッドに入っても眠れなかった。
最初に連絡が来たのは昼休みだった。
病院
来られる?
その二行を見た瞬間、
胸の奥が冷たくなる。
私は先生に早退を伝えて、
ほとんど何も考えないまま駅へ向かった。
病院へ着いたとき、
律は検査室の前の椅子に座っていた。
去年みたいに意識を失って運ばれたわけではない。
でも、顔色は明らかに悪かった。
私に気づくと、律が少しだけ笑おうとした。
「ごめん」
その声がかすれていた。
「大丈夫?」
聞きながら、
大丈夫じゃないことは分かっていた。
律は首を横に振るでもなく、
ただ小さく息をついた。
「検査、また増えるって」
それだけで、十分だった。
しばらくして呼ばれて、
律は両親と一緒に診察室へ入っていった。
私は外の椅子に座って、ひたすら待った。
時計の針が進む音は聞こえないはずなのに、
時間だけがやけに大きく感じる。
私はスマホを見て、閉じて、
また見た。
何もできない時間だった。
それでも、頭の奥では
数字だけが勝手に動いていた。
十八。
十九。
二十。
二十三。
そこまで並べたところで、
私はぎゅっと目を閉じた。
やめて、と思う。
まだ分からない。
まだ何も決まっていない。
でも、決まっていないことのほうが
前よりずっと怖かった。
診察室の扉が開いたのは、
それからかなり経ってからだった。
先に出てきたのは律のお母さんだった。
泣いてはいない。
でも、顔が白かった。
その顔を見た瞬間、
私はもう分かってしまった。
律は少し遅れて出てきた。
目が合う。
それだけで、
何を言われたのかだいたい分かった。
病院の外へ出て、
前に一度座ったことのあるベンチまで歩いた。
冬の空気は冷たくて、
息が白い。
律はベンチに座ると、
しばらく黙って前を見ていた。
私は隣に座る。
聞きたくない。
でも、聞かなければいけない。
やがて律が言った。
「戻ってきてるって」
私は膝の上で手を握る。
戻ってきてる。
その言葉は、ひどく残酷だった。
良くなったはずのものが、
また戻ってきている。
「前より進むの、早いかもしれないって」
私は何も言えなかった。
律は続ける。
「治療、やるけど」
「去年みたいに持ち直す保証はないって」
保証。
私はその言葉を頭の中で繰り返す。
ない。
去年は、あったわけじゃない。
ただ、起きた。
そして、私はその理由を知っている。
「……そっか」
やっとそれだけ言う。
律が小さく笑う。
笑おうとして、うまく笑えていない顔だった。
「またかよ、って感じ」
私は首を振る。
「そんなふうに言わなくていい」
律は少しだけ目を伏せた。
「でも、俺も意味わかんない」
前にも聞いた言葉だった。
でも今は、前よりずっと静かで、
前よりずっと疲れていた。
私は律の手を見る。
去年、何度も握った手。
その手を今すぐ取りたかった。
でも、そうしたら何かが決まってしまいそうで、
その一歩が踏み出せなかった。
その日の帰り道も、
私はほとんど何も話せなかった。
律は「また連絡する」と言った。
私はうなずいた。
また明日、とは言えなかった。
家に帰って、
部屋の電気を消して、
ベッドに入っても眠れなかった。


