人形姫と秘密のお役目 -1-

「蒼真」

「はい!」

「位置を」

「正面、距離三歩!左から来ます!」


 蒼真の声を頼りに、私は静かに足を踏み出す。

 空気が重く、息を吸うたびに胸の奥がざらつくような感覚が残るが、それでもまだ“視えていない”この状況では、人形越しの曖昧な視界と蒼真の指示だけが頼りだった。

 私はあの少年との間に割り込むと、懐から札を一枚取り出して地へと放ち、小さく呟く。


「――展開」


 札が淡く光り、薄い膜のような結界が瞬時に広がった直後、“それ”の腕が叩きつけられ、鈍い衝撃とともに結界に大きな亀裂が走った。
 それでも、内側にいる少年への直撃だけは防ぎきる。


「……今のうちに、逃げて」


 振り返らずにそう告げると、一瞬だけ迷うような気配があったものの、やがて足音が遠ざかっていった。

 “それ”が警戒するように殺気をビリビリと放ちながら低く唸る。


『邪魔をするな』


 その言葉にも、私は何も返さず、ただ静かに立ち続ける。