人形姫と秘密のお役目

 屋敷の外へ出ると、既に蒼真が待っていた。


「おはようございます。よく眠れましたか?」

「……普通」

「それなら何よりです」


 軽く笑う気配。

 いつもと変わらないやり取り。けれど、その奥にわずかな緊張が混じっているのを感じる。


「では、行きましょうか。桜丘学園」

「……うん」


 並んで歩き出す。

 道中は静かだった。会話はほとんどない。それでも不思議と不自然ではない距離。

 だが、学園へと近づくにつれ、空気がわずかに変わっていった。

 澄んでいたはずの空気に、ほんの少しだけ濁りが混じる。

 息を吸うたびに、胸の奥にざらついた感覚が残る。


(空気が穢れている…?)


 理由は分からない。ただ、何かがあるという感覚だけが残る。

 そのまま進むと桜丘学園の校門が見えきた。

 足を止めることなく、中へ入る。

 校内に入った途端、空気が変わった

 ざわめき。足音。声。

 様々な音が混ざり合う中で、ひとつだけ異質なものが紛れている気がする。