人形姫と秘密のお役目

 あの夜から、数日が経った。

 朝の空気は静かで、何事もなかったかのように穏やかだ。けれど、それでも完全に元通りというわけではなかった。

 私は襟元に指をかけ、わずかに整える。

 普段とは違う布の感触。動きにくいわけではない。ただ、ほんの少しだけ落ち着かない。


(……慣れないだけ)


 そう結論づけて、手を離す。

 腕の中には、いつもの人形。垂れた耳も、柔らかな布の感触も、あの時と変わらない。霊力の流れも、繋がりも、問題はない。


 ――それでも。


 抱き直したとき、わずかな違和感が残る。

 言葉にするほどではない。けれど確かに、何かが前とは違っている。


(……気のせい)


 そう思考を閉じると同時に、荷物と上着を手に取り、私は自分の部屋を出る。

 暖かくなってきたが、朝はまだ肌寒い。 
 私は袖を軽く引き寄せ、冷えた指先を隠すようにして歩き出す。