人形姫と秘密のお役目

 いつもの調子に、現実が静かに形を取り戻していく。


「……あの後、倒れたんです。覚えてますか?」

「……少しだけ」

「人形も……あの通りで」


 空気がわずかに沈む。


「術が切れてます。だから今、人形との視界共有も途切れてる状態かと」


(……だから、何も見えない)


 納得はできる。けれど胸の奥に残る違和感までは消えない。


「……ちょっと待ってくださいね」


 衣擦れの音。何かが傍に置かれる。

 そっと手を伸ばし、触れた瞬間、わずかな“ずれ”を感じた。

 柔らかな布の感触。でも、その奥にあるはずの張りや気配がひどく弱い。


「……壊れてる」


 垂れた耳、崩れた腕。そこにあったはずの“繋がり”が、確かに途切れている。


「……直さないと」

「俺が直しますか?」


 私はゆっくり首を横に振る。


「……いや。私が直さないと、意味がないから」


 作業ではなく、繋がりそのものだから。


「……そうですか」