絶対に使ってはいけない消しゴム

 ない、ない、消しゴムがない……!?

 抜き打ちテストが行われている教室。しんと静まり返っている中、私は何度もペンケースを確認していた。

 友達・カナに借りたくても今は話しかけられないし、手を挙げて先生に消しゴムを忘れたって言う勇気もない……。

 焦りながら机の中に手を入れてみると、指先に柔らかいものが当たった。

 それは、不思議な模様の消しゴムだった。

 え、うそ、ラッキー……!

 自分のものじゃないことはわかっていたけれど、私はその消しゴムを使って間違えたところを消した。

「テストお疲れ。そういえば昨日は大丈夫だったの?」

 休み時間、カナがすぐに声をかけてくれた。カナとは小学校から一緒で、中学生になった今でも一番仲良しだ。

「昨日って?」

「お母さんと喧嘩したって言ってたでしょ?」

「え、そうだけ?」

「『お母さんムカつく~!』って、連絡してきたのは誰よ?」

 私は喧嘩なんかしてないし、もしかしてカナは他の人と勘違いしてる?

 ――そう思ったけれど、カナの勘違いはそのあとも続いた。

 体育のバレーで顔面キャッチをした話や、先生のことをお母さんと呼んでみんなに笑われた話。

 大事にしてたキーホルダーを失くした話や、音楽の先生が学校を辞めた話さえ、私はなにひとつ覚えていなかった。

 なにかがおかしい。

 そう思い始めた時、カナから『絶対に使ってはいけない消しゴム』の噂を聞いた。

「その消しゴムってね、一回使うごとに嫌な記憶や恥ずかしい記憶、悲しい記憶まで消してくれるらしいよ」

 私はペンケースに目を向けた。そこには今日までずっと使い続けている〝あの消しゴム〟が入っている。

「自分にとって忘れたい記憶を消してくれるって便利だけど、その消しゴムには怖いことがあってね」

「な、なに?」

「その消しゴムが小さくなればなるほど、自分の存在も忘れられていくんだって!」

 ぞくりと、背筋が冷たくなる。

 たくさん、たくさん、使ってしまった消しゴム。

 大きさはすでに取り返しがつかないほどに小さくなっていた。

「でも、ただの噂だし、そんな都市伝説なんてあるわけないよね?」

 もしも私が使い続けてしまった消しゴムが、その都市伝説だったら……。


「あ、もうすぐ予鈴が鳴るから理科室に移動しよ。ところで、あなたは誰だっけ?」