冷徹宰相様の嫁探し

 ふう、とまた溜息をつき、顔を上げたマテオはぎくりとする。

 かなり遠い位置なのに、木の陰にいるのに、宰相アルベルトはこちらを見ていた。

 ひっ。

 い、いや、待て。
 自分を見ているわけではないのかもしれないっ、
とマテオは慌てて周囲を見回したが、王子の居室の近くに衛兵はいるが、この辺りには誰もいなかった。

 アルベルトが手招きをする。

 まだ、他の誰かを呼んでいる可能性を求めて、キョロキョロしてみたが、やはり、いない。

 仕方なく、アルベルトの元に行くと、
「もうよいぞ」
と言われた。

「は?」

 これは……正式にマレーヌの護衛を解かれたのだろうか。

 自分はマレーヌの父、ユイブルグ公爵に雇われているのだが。

 マレーヌが王子妃候補となった今、彼女の警備の決定権は王宮にある気がしたからだ。

 だが、アルベルトは言う。

「マレーヌに気がある風なお前を側に置くのは不安であったが。

 お前のその、決してマレーヌから目を離すまいとする態度、感服した。

 彼女を守るのに、これほどふさわしい男はおるまい」

 威厳のある声。
 見ているものを凍てつかせるほど、冷徹な瞳。

 だが、そんな彼から、自分を買ってくれているようなことを言われると、普通に褒められるより、遥かに嬉しい。

 マテオは思わず、その場に(ひざまず)いていた。

「はっ、ありがたき幸せっ。

 宰相様の命に従い、これからもマレーヌの……

 マレーヌ様の身に何事もないよう、全身全霊をかけて見張らせていただきますっ」

 うむ、よろしく頼む、と言い、宰相は行ってしまった。

 その信頼を感じる言葉に、ぽうっと美しき宰相を見送ったあとで、ハッとする。

「やばいやばい。
 こんな感じでマレーヌもあの人にやられたんだな」
と呟いた。