アルベルトに手を離されたあと、その場で巨大な宮殿を見上げ、マレーヌは思う。
王宮なんて、なにかの行事のときにしか来たことないなー。
そして、こんな風に馬車で真正面の扉まで乗り付けるとかやったことない。
位の高い公爵家の人間であっても、馬車は別の場所で降りねばならない決まりになっていた。
ここまで乗ってこられるのは、王族と宰相だけだ。
「ここまで宰相様のように馬車で来られる。
それが王族に嫁ぐということなのですね」
そう呟いて、妙なところで感心するな、という顔をアルベルトにされた。
「でも私、鳥のさえずる王宮の庭園を正面玄関まで歩くの、結構好きなんですけどね」
と言って、
「おかしな娘だな。
王子の元許嫁など、まだ嫁いだわけでもなかったのに、嬉々として馬車で乗り付けていたぞ」
とアルベルトに言われる。
「だが、まあ、私もこの緑あふれる庭園を歩くのは好きだ」
とほんとうにお好きなのですか? と問いたくなるほど冷たい顔で振り返り庭園を見ながらアルベルトは言う。
「ところで、そんなことより、この者はなんだ?」
アルベルトは冷たい視線をさらに凍らせ、マレーヌの背後にいる者を見た。
アルベルトの警護の者に混じり、馬車を守るように馬で並走してきたマレーヌの従者、マテオだ。



