私だけ

{いつも近くにいる人}


。。。

言うことを聞かずに跳ねる癖っ毛とにらめっこすること5分。
私のいらだちは最高潮に達していた。


「どうしてこうも直らないの!?ああもうっ!」

無理矢理髪の形を整え、スプレーで固める。

「はー。」

大きくため息をつく。深呼吸して、にっと口角を上げる

「行ってきまーす」

家のドアを開け、玄関を出る。
通学路はいつ見ても賑わっていて、たくさんの会話が聞こえる。

「おはよ、晴菜」
花楽里(からり)。珍しいわね。」

後藤晴菜(ごとうはれな)。美しい漆黒のストレートヘア。大きく、美しい瞳。晴菜はいつだって美しい。小さい頃の愛らしさも相まって、発光して見える。容姿端麗成績優秀。

――――――都合良く、そんな人が物語の主人公になるわけではない。
あくまで晴菜は私の憧れだし、晴菜からしたら私なんて知人Dくらいで。

それから、なぜ珍しいかというとどこかの完璧っ子とは違い、朝に弱く寝坊なんて日常茶飯事。そんなもんだから自分に自信が持てない。この自己肯定感の低さはこの性格のだめさから来ているのかもしれない。

「珍しいって。。。、。。。。。うう。。。はぁ。そんなことより、霧香いる?」

井下霧香(いのうえきりか)。私の友達(?)で、晴菜の幼馴染み。晴菜にしか心を許していない、というかコミュ障で、未だに挨拶も交わしたことがない。普段は晴菜の後ろにいるので、見かけているだけなのだ。

「ああ、いるわよ。まぁ。。。そっれにしても、ひどい癖っ毛ね。もう少しだけ早く起きていればセットしてあげられるのに、」

晴菜はそう言ってヘアアイロンを取り出した。
晴菜だって元からかわいいわけではない。確かに地はかわいかったが毎日朝早くに起きて身だしなみを整えている。

「無理無理!今ので精一杯!」

私に、そんな生活できるわけがない。

私だって、かわいくなりたい。でも、自分が元からかわいいわけでもない。だから正直かわいい自分を見たくない、というのがあるのかもしれない。だって、その『かわいい自分』は、私じゃないから――――。

良くない、こういうのを考えるのはやめよう。悪循環だ。

「にしてもこの坂、きつー。」

校門の前にある壁のように私の前に立ちはだかる坂。50mくらいで別に長くはないけれど、急斜面な場所はきついのだ。

「あとちょっとー」

晴菜が横から励ましてくれる。

なぜここまで完璧なのか。
なんて、冗談はそれくらいにして。

私はきつい坂を黙々と歩いた。

校舎を前にしたところで黄色い歓声が聞こえた。

『『『『『『『きゃ~~!(れん)様~!』』』』』』』

うちの学校はどうも上下差が激しいらしい。

また一人完璧っ子が現れた。

「おはようございます、花楽里先輩。」
「憐くん。おはよう。」

私の周りは完璧っ子が多いらしい。

幼馴染みである憐くんまでもが完璧だ。

少々困る。それに、毎朝挨拶されると女子の視線が痛い。

けれど、私は断っていない。
なぜなら――――――憐くんは、晴菜ちゃんが好きだからだ。

かといって、私が悲しいかって言ったら、正直悲しくない。
別に憐くんはかわいい幼馴染みで距離が近すぎて、弟のようなのだ。

「憐くん、また寝坊したでしょ。ボタンずれてる。」

―――――私が言えたことではないが憐くんは朝に弱い。

「あっ」

私が指摘すると憐くんはいつもやってしまった、という顔をする。
わかりやすいし表情がくるくると変わって素直なので見ていて飽きない。

「じゃぁね、憐くん」

私は、憐くんに手を振って、児童玄関を離れ教室に向かった。

逢川(あいかわ)くん、すごい人気だね~」

晴菜ちゃんが明るい声で言った。

「。。。あんたにだけは言われたくないと思う。」

正直、こんなモテ女に言われてもお世辞にしか聞こえない。

「あっはは。そーかもねー。にしてもすごい人気だよ~」

晴菜は、予想以上にツボったようで、大笑いしている。

天才のツボは、分からない。

「にしても、逢川くんの近くにいる人、いつもいるよね。だれだろ。・・・って、霧香が。」

でた。晴菜と霧香の以心伝心。
もしかしたら同一人物かもしれないと疑ってしまう。

「あーうんと、山下 理桜(やましたりお)くん。憐、、くんの、幼馴染みで、、」

私は古い記憶をたどる。

最近理桜くんとは話していない。中学生くらいの時から、話すことがなくなった。
最近は会うこともなくなって、見かけるくらいだった。もう、4年も会っていない。

「へぇ~そうなんだ。」

晴菜は、ふと探偵ポーズをした。

「これには深い謎がありそうd」
「ないから」

たまにこうして晴菜は探偵ごっこを始めようとしている。

小学生からの付き合いなのでこれを止めるのにもなれた。


それから何もなく、放課後までが終わった。





{新しい出会い}



「つかれたぁ」

晴菜ちゃんと並んで歩く。

「部活、そんなハードなの?」

晴菜ちゃんは、陸上部に入っている。

陸上部の先輩たちと顧問は熱血系で、毎日のようにハードな練習をさせられているという。
とは言え、毎日元気が有り余っていた晴菜ちゃんをへなへなにさせる練習量、常人には耐えられないだろう。

「うん。。。」

夕日が晴菜ちゃんのクリーム色の髪を照らす。
色素が薄いというのは、本当に良いと思う。

「お疲れ様~。アイス買って、食べようよ!」

平年よりも暑くなってきているので、部活帰りに食べるアイスは絶品だと思う。

私は帰宅部だから、図書館で待っていたので別に暑くはないのだがそれでもおいしいと感じさせる気温になりつつある。

「やったぁ!」

喜ぶ晴菜を見ると、女子である私でさえ惚れてしまいそうになる。

それくらい晴菜はかわいいのだ。

「今日はクールッシュかな~。それともポルムもいいな~」

有名どころのアイスを並べてくる。

「私はモニ王にしようかな?」

私は、チョコレートととろけるバニラ味を想像する。
考えただけで顔がにやけてしまう。

「いいねそれっ!私もそうしようっ」

そう言って手で長方形の形を作った。
白くて長い指がきれいだ。


「「いただきまーす」」

二人で、ブランコに座りアイスを開ける。

「はー。この公園、久しぶりだね。」

食学生の頃はよく遊んだ、砂場とブランコがある公園。
大きいわけではないけれどいつも二人で遊んでいた。

「そうだね!なつかしー」

今は少し古くなっているけれどブランコの赤色が懐かしい。

「あーおいしかった!」

そんなことを考えていると、晴菜はもう食べ終わっていた。

「はやっ!いそげいそげ」

私は、その姿を見て口いっぱいにアイスを頬張った。
口のあたりが冷えて、頭に痛みが走る。

「焦らないでー!」

晴菜は落ちだって優しい。その優しさにジーンとしながら私はアイスをかんだ。


「「ごちそうさまでした」」

二人で手を合わせる。
ぱんっと気持ちいい音が響く。

「あー楽しかった。こういうの、久しぶり。」
「そうだねー」

二人で笑いながら歩いた帰り道は楽しくて仕方がなかった。

「じゃぁ、ここでお別れだ。ばいばい。」

「またねー」

学校の近くにある晴菜の家まで送り、私は自分の家を目指した。

細い裏道に入る。

「よっこいしょっ!」

コンクリートの塀を上って竹林に入る。

ガサガサと物音を立てて奥へと進む。
石でできた階段を上ると少しだけ開けた場所がある。

「ふー。あっ!きれー。」

ここは、私たちが小さい頃に、秘密基地として使っていたところ。
晴菜や憐くんはきっとここに来ていない。理桜くんだってそうだろう。

でも、この時間帯にココカラ見える景色は絶品なのだ。


淡い黄色、オレンジ色。薄く広がる雲とまだ少し混ざり合う水色。
薄い黄色へと変化し、色は少しずつオレンジ色へと変化する。

少し雲が色づいたと思ったらぱっと赤色が空を埋め尽くす。
その時、ふっと太陽は姿を消した。光がまだ少しだけ残る。

それから少し、ほんの少しだけたった後に空は藍色へと変化した。

「もう夜だー。今日も一日、終わっちゃう。」

私はほんの少し湿った土に手を置いて、腰を上げた。

迷うことなく道を歩く。
月明かりに照らされた竹はどこか幻想的な気がした。
私を通せんぼする竹をかき分けて道路へ戻る。

今はちょうど人通りの多い時間だけれど、人気のない裏道はとてもしんとしていた。

けれど、小さい頃から通っていた私は、この静けささえもどこか、懐かしく感じる。

「ふふっ。」

昔のことを思い出して一人で笑う。傍から見たら奇妙でしかないだろう。
でも、ここは私の大切な思い出の地。笑顔が出てしまうことについては仕方がないだろう。

「何笑ってるんだ。」

背後から、低い声がした。
でも全然怖くなくて、むしろ懐かしい感じがした。

「?」

後ろを振り向くと、ハーブのさっぱりとしたニオイがした。

――この匂い、、

目線をあげると、予想していた顔があった。

色素の薄い金髪が月明かりに照らされ、風に流され、映画のワンシーンのように感じる。

「理桜、くん、」

予想もしなかった出会いに、驚きが隠せない。

会うのは、何年ぶりだろうか。
3年、いや、4年も会っていない。

どんな顔をしていえばいいんだろう。どうやって話せばいいんだっけ?

あ、れ、、、?私、こんなに動揺してどうしたの?

もう、大人なんだから。
理桜くんだって、覚えてないよね――――――。





{オトナとコドモ}



「・・・里!花楽里!」

晴菜ちゃんの声と体を揺さぶられた感覚で意識が戻る。

「はっ!ごめん、晴菜ちゃん」

意識を戻した私は、心配してくれている晴菜ちゃんにまず謝る。

「どうしたの?ぼーっとしてたよ?保健室行く?」

みんなも見てて分かったと思うけど、、晴菜ちゃんは、心配性だ。

私の頬に両手を当て、顔を晴菜ちゃんの方に寄せられる。
じろじろとのぞき込まれて、恥ずかしい気分になる。

「ごめんごめん、大丈夫だって。ちょっと、、考え事してたの。」

私は、晴菜ちゃんのまっすぐな瞳に耐えられず目を泳がす。

「ほんとに!?ほんとだね!?悩み事があったらいってね!?」

晴菜ちゃんは、私に何かあるといつもそう言ってくれる。
とてもありがたい、頼りになる親友だ。

「あのさぁ、大人と子供の違いって、何だと思う?」

私の唐突な質問に、晴菜ちゃんは戸惑いながら答えてくれる。

「うーん、大きくは、、年齢、だと思うよ?でも、やっぱり大人って精神が安定してるっていうか。。。ほら、子供って挙動不審じゃん?」

そう晴菜ちゃんはいった。

「そっか。精神安定。。。」

私は、予想していない答えに、やっぱり天才だな、、、と思いながら、私が探し求めていた答えは、それ――精神安定なんじゃないかって思う。

根拠はない、けど――

「昨日さ、理桜くんに会ったんだ、、」

私は、気づかないうちに晴菜ちゃんに打ち明けた。

その言葉を聞いて、晴菜ちゃんは察したかのように少し眉を下げて笑った。

「そっか。。思い出しちゃった?でもね、大丈夫。」

私は、予想していない答えにまたもや驚きを隠せない。

晴菜ちゃんは、根拠のないことをいわない人間だ。
いつだって、感情に揺られない。正しいことが分かる子。

「なん、で、、、?」

私が不安そうに聞くと、晴菜ちゃんはにっこりと笑った。

「確かにね、あの時は私もびっくりしたよ。花楽里に何があったんだろうって。挨拶しない花楽里なんて、花楽里じゃないみたいで。相当動揺してたよね、、。力が抜けたようにぼーっとしてて、どうしたんだろなー?ってずっと思ってたんだけど。その日の夜に理桜から電話が来て。どうしよう、花楽里傷つけたかも、って。焦ってて。でもね、もう理桜は小学生じゃないの。ちゃんと花楽里のこと考えられる。きっと、気持ちも分かってくれるよ。」

晴菜ちゃんは微笑んでそう言ってくれた。

「そうかなぁ。。。」

私のトラウマと不安は、いつだって拭えない。
きっともう、忘れられない。





{消えない過去と拭えない傷}


私と理桜くんは、仲の良い幼馴染みだった。

毎日双子のようにくっついて歩き回っていた。

「二人とも仲いいわねぇ。」
「たくさん遊びなさい。」

近所の人には、いつもそう言われていた。
それに違和感はなかったし、むしろ嬉しいとさえ感じていた。

学校でも、クラス公認ペアみたいで、一緒にいないと不自然にとられていた。

「二人とも仲いいー」
「双子みたい!」

小学生低学年までは。まではそう言われていた。

けれど、私と理桜くんには越えられない壁があった。
『性別』いつからか、異性としてとらえられていた。

いつしか、ひそひそとカップルと言われるようになっていた。
私は、それが嫌だった。

当時の私には、好きな人がいた。
いや、好きだったかもしれない人。今考えれば、それは恋ではなかったと思う。

でも。それでも。当時の私はそれを『好き』と勘違いしていた。
だから、カップルと間違えられたくない。
その気持ちでいっぱいだった。

「やーい。また一緒にいてやーんの!」
「あっはは~!絶対に付き合ってるでしょぉ!」

そうやって、からかわれるのが嫌で仕方がなかった。

「花楽里?どうしたの?別に、、気にしなくて良いよ。そんなの、花楽里らしくない。」

理桜くんはそう言って、私に手を差し伸べてきた。

あれは、理桜くんの優しさだったのかもしれない。

でも、私らしくない。そう言われるのが。気にしなくて良い。そう言われるのが。
私は、苦しかった。まるで、私は理桜くんと同じみたいだった。
分かるはずない。私と理桜くんは違う人物なの。

「私らしくないって何?私は私だよ?私はいつだって変わるの。理桜くんのそういうところ大っ嫌い!」

私は、理桜くんの手を振り払ってそう言った。

その時の、理桜くんの顔は――――――。

ずっと拭えない傷は、きっと理桜くんにもある。

罪悪感と自分の中にも残る傷。私は、感情の整理ができない。

やめて、やめて。一人にして――――――――





{カワレナイ}



。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

「はぁ、はぁ、はぁ」

荒い息と、汗でびしょびしょの体。

(また、この夢・・・)

大嫌いな、この夢。

『もう見たくない。
 神様、見せないで。』

毎日毎日、そう思いながら寝る。

けれど、それは、叶わない。

「最近は調子よかったのに、、、、。」

この夢は、相当堪える。

せっかくの休日が、台無しだ。
嫌だなぁ、本当に嫌だなぁ。
なんで、私だけだろう?

何万回も思った言葉。

でも、弱音を吐いたって何も変わらない。

私は、ずっと、ずっと。
このまま。変われない。

。。。。。

ベッドをむくりと起き上がる。

スリッパを履いて、階段を降りて、リビングへ向かう。

「―――――――おはよう」

ぼーっとしながら、頭をかく。

容赦なく襲ってくる倦怠感。

「朝ご飯、食べる?」

お母さんが、こちらをのぞき込んで来る。

お母さんは、気づいたんだ。

「――――――ごめん」

私は、この夢を見ると極端に体調が悪くなる。

今回はあたりが悪かった。

普段は受け付けている食べ物が喉を通らなくなる。
水を飲むのが精一杯で、気分も下がる。

いらいらして、まるで反抗期の餓鬼みたいだった。

「私、ちょっと用事あるから。」

そう言って、自室に戻る。