余命3ヶ月のキミ

夜。
病院は静かで、
廊下の灯りだけがぼんやりと照らしている。
湊は、いつものように陽菜の部屋にいた。
陽菜「ねぇ湊」
ベッドの上で、天井を見ながらつぶやく。
湊「ん?」
陽菜「今日さ、静かだね」
湊「夜だからな」
陽菜「そっか」
少しの沈黙。
でも――
いつもと違う空気だった。
湊(心の声)
「……なんか変だ」
陽菜は、ゆっくり体を起こす。
そして――
まっすぐ湊を見る。
陽菜「ねぇ」
湊「……なに」
陽菜「キスしてよ」
――時間が止まった。
湊「……は?」
陽菜「キス」
湊「ど、どうしてだよ、?急に」
陽菜は少しだけ首をかしげて――
陽菜「急にじゃないよ?」
そして、少しだけ目を伏せる。
陽菜「それに……」
小さく、でもはっきりと。
陽菜「私、もうすぐ死んじゃうんでしょ?」
――ドクン
心臓が、強く打つ。
湊「……っ」
言葉が出ない。
陽菜「やっぱり、って顔してる」
少しだけ、寂しそうに笑う。
陽菜「ねぇ」
陽菜「私、バカじゃないよ?」
陽菜「体のことも、先生たちの顔も、空気も…」
陽菜「なんとなく分かる」
静かな声。
でも、その一言一言が重い。
湊(心の声)
「……やめろ」
「そんな顔で言うなよ」
陽菜「でもね」
ふっと笑う。
陽菜「聞かないって決めたの」
湊「……なんで」
陽菜「だって」
陽菜「“知らない方が楽しい時間もある”って思ったから」
その強さに、
湊は何も言えなくなる。
陽菜「だからさ」
少しだけ、顔を近づける。
陽菜「最後くらい、いい思い出ほしいなって」
陽菜「ねぇ湊」
その目は、まっすぐで
逃げ場なんてなかった。
陽菜「私のこと、少しは好き?」
湊は、もうごまかせなかった。
湊「……少しじゃねぇよ」
陽菜「え?」
湊「……めっちゃ好きだよ」
空気が止まる。
陽菜は、少しだけ驚いて
そして――
嬉しそうに、笑った。
陽菜「……そっか」
陽菜「じゃあ」
もう一度、言う。
陽菜「キスしてよ」
湊は、震える手で
陽菜の頬に触れる。
湊(心の声)
「……怖い」
「終わりが来るのが」
「この時間がなくなるのが」
でも――
目の前の陽菜は
優しく微笑んでいた。
湊はゆっくりと顔を近づけて――
そっと、
額にキスをした。
陽菜「……あれ?」
少しだけ不満そうな声。
湊「……それ以上はダメだ」
陽菜「なんで?」
湊「……まだ終わってねぇから」
陽菜は一瞬、きょとんとして
そして――
陽菜「……そっか」
優しく笑った。
陽菜「じゃあ」
小さく、つぶやく。
陽菜「続きは、また今度ね」
その“今度”が
どれくらい残っているのか
二人とも分かっているのに
誰も、言わなかった。
湊は、そっと陽菜の手を握る。
陽菜も、ぎゅっと握り返す。
陽菜「ねぇ湊」
湊「ん?」
陽菜「私ね」
少しだけ間を空けて
陽菜「今、すごく幸せ」
その言葉に
胸が痛くなる。
湊(心の声)
「……もっと」
「もっと、幸せにする」
でもその願いは――