余命3ヶ月のキミ

昼過ぎ。
陽菜が自分の病室に戻ったあと――
湊は一人、廊下を歩いていた。
湊(心の声)
「……暇」
特に行く場所もなく、なんとなく自販機の方へ向かう。
ガチャ
ジュースを取り出そうとした、その時――
奥のナースステーションから、声が聞こえた。
看護師A「……あの子、本当に明るいわよね」
看護師B「ええ。でも…」
少しだけ、声のトーンが下がる。
湊は無意識に、足を止めた。
看護師A「本人には、まだ伝えてないのよね」
看護師B「うん…。ご家族の意向で…」
湊(心の声)
「……誰の話だ?」
看護師A「あと3ヶ月なんて…」
――その言葉で、空気が止まった。
看護師B「せめて、最後くらい普通に過ごさせてあげたいって…」
看護師A「……陽菜ちゃん、本当にいい子なのにね」
ドクン
心臓が、大きく鳴る。
湊(心の声)
「……は?」
頭が追いつかない。
看護師B「毎日“やりたいことリスト”書いてるんだって」
看護師A「……知ってる。見たことある」
その瞬間、昨日の光景が頭に浮かぶ。
『海に行く』
『遊園地』
『好きな人作る』
湊(心の声)
「……うそ、だろ」
看護師A「……あの笑顔、見てるとつらいわね」
看護師B「うん……」
それ以上、聞けなかった。
湊はその場から離れる。
足が、うまく動かない。
湊(心の声)
「……3ヶ月?」
「陽菜が?」
信じたくない。
でも――
全部、つながってしまう。
「普通のこと、したい」
あの言葉。
あのノート。
あの笑顔。
湊は、気づけば陽菜の病室の前に立っていた。
ドアの向こうから、声がする。
陽菜「〜♪」
鼻歌。
楽しそうな声。
ドアを開けると――
陽菜がベッドの上で、またノートを書いていた。
陽菜「あ、湊!」
ぱっと顔を上げる。
いつも通りの笑顔。
陽菜「見て見て!また増えたよ!」
ノートを嬉しそうに見せてくる。
湊は、そのページを見る。
『夏祭りに行く』
『花火を見る』
『誰かと手をつないで帰る』
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
陽菜「ねぇ湊、どれ一緒にやる?」
無邪気な声。
何も知らない顔。
湊は――
一瞬、言葉を失う。
湊(心の声)
「……言えない」
「言えるわけないだろ」
湊「……全部」
陽菜「え?」
湊「全部、やる」
陽菜は一瞬ぽかんとして――
すぐに、ふわっと笑った。
陽菜「ほんとに?」
湊「……ああ」
小さな嘘。
でも――
その言葉は、湊の本音だった。
湊(心の声)
「……あと3ヶ月なら」
「全部、叶えればいい」
陽菜「じゃあ約束ね!」
また、小指を差し出す。
湊は、強くその指を絡めた。
湊(心の声)
「……絶対に」
「一人じゃ、終わらせない」
窓の外。
青空は、変わらず広がっている。
でも――
湊の世界だけが、少し変わり始めていた。