余命3ヶ月のキミ

――数ヶ月後。
夏。
空は青くて、
あの日と同じように、よく晴れていた。
湊は、一人で歩いていた。
向かう先は――
あの病院。
湊(心の声)
「……久しぶりだな」
入口をくぐると、
あの匂い、あの空気。
全部、思い出す。
笑ってた声。
手の温もり。
一緒に見た景色。
気づけば、足は自然と
屋上へ向かっていた。
ギィ…
ドアを開ける。
風が吹く。
あの日と同じ場所。
湊は、フェンスの前に立つ。
ポケットから取り出したのは――
一枚の写真。
あの日撮った、最後の一枚。
少し照れている自分と、
優しく笑う陽菜。
湊「……変な顔」
小さく笑う。
そして、もう一つ。
ノート。
『やりたいことリスト』
陽菜が大事にしていたもの。
ページをめくる。
ほとんどに線が引かれている。
でも――
最後の一つだけ、残っている。
『好きな人と帰る』
湊は、その文字を見つめて
少しだけ目を細める。
湊「……できなかったな」
あの日。
“帰ろっか”って言ったのに。
静かな風が吹く。
しばらくして――
湊はペンを取り出す。
そして、その項目に
ゆっくり線を引いた。
湊「……これでいいだろ」
誰に言うでもなく、
小さくつぶやく。
湊(心の声)
「一緒に帰ったよな」
「ちゃんと」
「最後まで」
空を見上げる。
あの日と同じ、広い空。
湊「……なぁ陽菜」
風が、少しだけ強く吹いた。
湊「俺さ」
「まだ、お前のこと好きだわ」
苦笑い。
湊「……当たり前か」
ポケットに写真を戻す。
そして、ゆっくり振り返る。
湊(心の声)
「前、向くって決めたけど」
「忘れるなんて、無理だ」
「でも――」
一歩、歩き出す。
「それでいい...よな、?」
風の中、
どこかで聞こえた気がした。
「湊〜!」
振り返る。
でも、そこには誰もいない。
それでも――
湊は、少しだけ笑った。
――数日前
病院で、看護師から渡されたもの。
陽菜のノートの最後のページ。
そこには、こう書かれていた。
『余命3ヶ月でも』
『こんなに幸せになれるって思わなかった』
『全部、湊のおかげ』
『ありがとう』
『大好きだよ』
ページの下に、小さく。
『出会えて、本当によかった』
湊は、そっとノートを閉じる。
空は、どこまでも青い。
この世界のどこかに、
もう陽菜はいない。
でも――
確かに、ここにいた。
湊(心の声)
「……ちゃんと、生きたな」
“余命3ヶ月のキミ”は
誰よりも、強くて
誰よりも、まっすぐで
そして――
誰よりも、幸せそうに笑っていた。

ー完ー