余命3ヶ月のキミ

夜が明ける少し前。
病室は静かで、
機械の音だけが、一定に響いている。
湊は、ベッドの横の椅子に座っていた。
陽菜は、眠っている。
昨日の花火のあと、
そのままここに戻ってきて――
それから、ずっと。
湊(心の声)
「……寝てるだけだよな」
そう思いたかった。
でも――
陽菜の呼吸は、少しだけ浅い。
握っている手も、
前よりずっと、弱い。
湊「……陽菜」
小さく呼ぶ。
返事はない。
窓の外が、少しずつ明るくなっていく。
朝が来る。
その“当たり前”が、
こんなにも怖いなんて思わなかった。
陽菜「……ん」
小さく、声がした。
湊「……!」
ゆっくり、目を開ける陽菜。
陽菜「……湊」
湊「……ああ」
陽菜「まだいたんだ」
湊「当たり前だろ」
陽菜は、少しだけ笑う。
でも――
その笑顔は、もう無理しているのが分かるくらい弱かった。
陽菜「ねぇ」
湊「ん?」
陽菜「昨日、楽しかったね」
湊「……ああ」
陽菜「花火、きれいだった」
少しの沈黙。
陽菜「ねぇ湊」
湊「なに」
陽菜「最後まで、いてくれる?」
その言葉。
“最後”という意味を、
もう二人とも分かっている。
湊は、迷わなかった。
湊「……当たり前だろ」
陽菜は、ほっとしたように
目を細める。
陽菜「よかった」
その一言が、
胸を締め付ける。
陽菜「ねぇ」
湊「ん?」
陽菜「キス」
昨日と同じ言葉。
でも――
意味は、全然違った。
湊は、何も言わずに
そっと顔を近づける。
今度は、迷わなかった。
優しく、
唇にキスをした。
陽菜「……えへへ」
小さく、笑う。
陽菜「ちゃんとしてくれた」
湊は何も言えない。
ただ、手を強く握る。
陽菜「ねぇ湊」
湊「……ん」
陽菜「私ね」
少しだけ息を整えて、
ゆっくり言葉を紡ぐ。
陽菜「湊のこと、好きだよ」
時間が止まる。
湊「……知ってる」
声が震える。
湊「俺も」
「好きだ」
陽菜は、嬉しそうに笑う。
陽菜「よかった」
そのまま、
目をゆっくり閉じる。
湊「……おい」
返事はない。
湊「……陽菜」
手を握る。
でも――
少しずつ、
その力が抜けていく。
湊「……待てよ」
声が、かすれる。
湊「……まだ」
でも――
静かに、
本当に静かに。
陽菜は、そのまま動かなくなった。
窓の外。
朝日が、差し込む。
湊「……っ」
声にならない。
ただ、
手を握ったまま――
その朝は、
あまりにも静かだった。