出会った当初、イーサンは兄のような存在だった。けれど、歳を重ねていくうちに私の中で特別な存在に変わっていった。
その決定打となったのは、私が十三歳の時。
地方からやって来た酔狂な役人が、私の顔が本当に醜いオーク顔なのか確かめようと企てた。宴で警備が手薄になっているのを見計らい、役人は夜陰に乗じて私の部屋まで辿り着いたのだ。
部屋で一人だった私は恐怖で悲鳴も上げられず、ただクローゼットに隠れるしかなかった。
役人に見つかるのは時間の問題。
息を殺してクローゼットの扉の隙間から外を観察していると、とうとうこちらに近づいてきた。
役人がクローゼットの取手を掴んで扉を開こうとしたその時、イーサンによってその役人は捕らえられた。
あの時のイーサンの迅速な対応は、今でもこの目に焼きついている。役人の手首を掴んで腕を捻り上げると、素早く床に押さえつけて手刀で気絶させていた。
その勇ましい姿と圧倒的な強さに、私は一瞬で恋に落ちた。以来、ずっと片想い中である。
「ううっ、イーサンが好…………すね毛ボーボー」
危ない危ない。
うっかり『好き』だなんて口にしたらオーク顔になってしまう。
イーサンが巡回からいつここに戻ってくるのか分からない。あんな醜い姿を見られたら一貫の終わりだ。
ジークハルト殿下のようにイーサンも気絶するかもしれない。
最悪、拒絶されて護衛を辞められる可能性だってある。
イーサンに嫌われるなんて耐えられない。想像しただけで胸が張り裂けそうだ。
「姫様ともあろうお方が。もう少しマシな言葉で寸止めしてくださいよ」
私がイーサンを好きだと知っているマルティナは、額に手を当てる。
「咄嗟に出た言葉がそれだったんだから仕方ないでしょう? それにイーサンから嫌われる方が大問題だわ」
真顔で答える私に、マルティナが「はいはい」と軽口を叩くと話題を変えた。
「そろそろ針子とデザイナーが来る時間です。王太子殿下の戴冠式でお召しになるドレス一式を届けてくれますよ」
「一兄様の戴冠式……」



