「そんなのおまえのロマンス小説からに決まってるじゃない」
「なななっ、私はそんなもの持ってません!」
マルティナは手にしていた本をさっと後ろに隠す。本には有名な詩集のタイトルが書かれているが、あれの中身はロマンス小説だ。
私はテーブルに肘をついて手を重ねると、その上に顎をのせた。
「”呪われた私と殿下の十日間”って言葉に聞き覚えがあるんじゃないの? 良かったら感想を聞かせてくれる?」
「あばばばばっ」
伯爵家出身だというのに、マルティナは俗っぽいところがある。
普通の令嬢は、本といえば詩集を嗜む者がほとんど。ロマンス小説は市民の娯楽に過ぎないため、貴族の間では低俗な読み物と認識されている。よって、好き好んで読む人間はほとんどいない。
私は焦るマルティナを見てくすくすと笑った。
「安心して。伯爵には言わないでおいてあげるわ」
「ありがとうございます」
余談だが、マルティナは金髪碧眼のきらきらしい王子様が好み。外見の要素が合致しているジークハルト殿下を見たら、黄色い声を上げるだろう。
不意に、ジークハルト殿下の拒絶の言葉が頭をよぎった。何度も脳内再生されて頭から離れない。
私だって好きで醜いオーク顔になったわけではないのに……。



