オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

そして、なぜか、自然と口を開いていた。

「私、来週で引っ越すの」
「え?」

海原くんが驚いた顔でこちらを見る。
その表情がおかしくて、私は思わず小さく笑った。

「短い期間だったし、あんまり寂しいとかはないんだけどね」

そう言いながら、私は少し不思議な気持ちになっていた。

普段なら、引っ越すことなんて誰にも言わないのに。

「……あ、ごめん興味ないよね」

私は、誤魔化すように小さく笑う。

「なんか、最後に海原くんと話せてよかったなって思ったのかな」

うまく説明できない感覚だった。

不思議と懐かしいような……言葉にできない気持ち。

海原くんは、しばらく黙っていた。
それから、ふっと立ち上がる。

「行こ」
「え?」

突然の言葉に、私はまた、目をぱちくりさせる。

「まだ一週間あんだろ!」
夕焼けの光の中で、彼はにっと笑った。

「この町の良さ、俺が教える!」
そう言うと、海原くんは軽々と防波堤から飛び降りる。

そして振り返り、私に向かって手を差し出した。
夕日に照らされて、眩しそうにこちらを見上げている。

その表情を見た瞬間。
なぜだか、胸がいっぱいになった。

理由は分からないけれど。

——この手を取りたいと、強く思った。

私は、自然とその手に自分の手のひらを重ねていた。

海原くんは、やわらかくその手を掴み、走り出す。

夏と秋の香りが混ざり合った風が気持ちよく頬に当たった。

その手の温かさは、初めてのはずなのに。

どうしてだろう。

泣きたくなるほど、懐かしい手のひらだった。