オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

「水城……?」

突然聞こえた声に、私は顔を上げる。

そこに立っていたのは——夕日に照らされた、クラスメイトの海原翼くんだった。

……あれ。

ふわっと不思議な感覚がする胸にそっと手を当てた。

なんでだろう。この景色を、見たことがある気がする。
私は思わず目をぱちくりさせた。

でもすぐに、我に返って、淡々と返事をする。

「……うん。海原くんも帰り?」

そう尋ねると、海原くんは首を左右に振った。

「いや、一回帰ってから、いまから健太たちと遊びに行くとこ」

ごくごく自然な会話に、私は小さく頬をゆるめた。

海原翼くんは、クラスでもよく目立つ人気者で。
ひとりでいることが多い私を気遣ってくれた、とても優しい人だ。

話す機会はあまりなかったけど、彼の優しい雰囲気は私をあまり緊張させなくて、話しやすい人のひとりだった。

「そうなんだ」

それだけ言って、私はまた絵日記に視線を落とした。
それで、会話が終わると思って、また絵を描き始める。

——トン。
小さな音がして、隣に気配がした。

驚いて振り返ると、隣に海原くんが腰を下ろしていた。

「水城って、良い絵描くよな」

「……なんで?」
私は思わず顔を上げた。

海原くんの視線が落ちた先には、描きかけの海がある。

私は、慌ててノートをひっくり返して隠した。

「や、美術の授業とかでさ」

彼は気にしていない様子で、防波堤に両手をついて笑った。

「なんか目に留まるっていうか。俺、水城の絵、好きなんだよね」

さらっと言われて、胸の奥が少しだけくすぐったくなる。

私はうまく返事ができなくて、ノートの端を指でいじった。

海原くんがその手元に一瞬目を向けて、笑う。

「描いてよ、海」
夕焼けに光る海を、指した。

「水城の描く海、見たい」

その言葉は不思議と私の背中を押して、私はもう一度絵日記を開いた。