オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

放課後の教室は、楽しそうな声で溢れている。

「そんじゃ、またあとで集合な!」
「おっけー。翼、遅刻しないでね」
「分かってるよ」

クラスメイトたちの、親しそうな会話。

机を片付けながら、私はその声を後ろ耳に聞いていた。

廊下に出てひとりになると、ふっと肩の力が抜ける。
私は小さく息を吐いて、そのまま職員室へ向かった。

「失礼します」
担任の席まで歩いて行って、転校手続きの書類を差し出す。

先生は内容を確認しながら、ぽつりと言った。

「東京か。また都会なんだね」
私は小さくうなずく。

「はい。……正直、都会の方が慣れてます」
そう答えると、先生は少しだけ寂しそうに笑った。

校門を出た瞬間、潮の匂いがふわっと鼻をかすめた。

海の匂いがする、この通学路。

最初は珍しくて、つい立ち止まってしまったけれど、今ではもう、すっかり慣れてしまった。

「一年半か……」
ここで過ごした期間を思い返して、ぽつりとつぶやく。

十月に、また父の転勤が決まった。
今度の引っ越し先は、本社のある東京。

あと一週間で、私はこの町を去ることになる。

この町に特別な思い入れがあるわけじゃないし、寂しさはないけれど。

でも、見慣れてきたこの海の景色は、嫌いじゃなかった。

やがて通学路の分かれ道に差しかかって、ふと足が止まった。

自然と視線が、防波堤のある方へ向く。

今朝、日記にあった防波堤の絵が、頭に浮かんだ。

引っ越してきてすぐ、家族で海を見に行ったことがあった。

それからも、ときどき、夕方の海を見に来た気がする。

でも、いつの間にか、足を運ぶことは減っていた。

——防波堤に行きたい。

なぜか分からないけれど、そんな思いが突然強く響く。

それなら今日は、防波堤で日記を描こうかな。

そう思って、私は防波堤の方へ歩き出した。