オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

「父さん」

屋台を出る直前、翼がふいに振り返った。

焼きそばを頬張りながら少し前を歩いていた私は、慌てて足を止める。

次の焼きそばに取り掛かっていた翼のお父さんも、不思議そうに顔をあげた。

「俺、高校生になったらひとり暮らしする」

「はあ?」
ガラン、と音を立てて、鉄板のヘラが落ちる。

翼のお父さんも私も突然の言葉に目を見開いた。

「なんだなんだ?」
「ケンカか?」

その大きな声に、近くの屋台の人たちまで振り向き、野次馬みたいな視線が集まってくる。

翼はそんなこと気にもしていないみたいに、まっすぐ前を見つめていた。

「それまでに、なんでもできるって安心させてみせるから」

少しだけ息を吸って、続ける。

「家のことは、俺にやらせてほしい」

少しその場が静まり返り、翼のお父さんは驚いた表情のまま固まっていた。

数秒して、落ちていたヘラを掴んでこちらに向ける。

「何言ってんだ急に!」

隣に立つ翼を見上げると、翼は、後ろで隠すように私の手を握った。

そっと握り返すと、翼は小さく微笑んでから、またお父さんに向き返る。

「俺は、俺の夢に進むから」
翼はそう言って、笑顔を見せた。

「父さんも、もう自分の夢追いかけてほしい」
翼のお父さんは、目を丸くしていた。

言葉を失ったみたいに、口を開けたまま動かない。

その顔を見て、翼はふっと吹き出す。
いつもの、爽やかで太陽みたいな笑顔とは違う。

もっと子どもみたいな——無邪気な、満面の笑顔だった。

「いつまでも子どもだと思うなよ!」
そう言いきった翼は私の手を引いた。

「行こう汐莉!」
ぐっと腕を引かれて、私は思わず駆け出す。

「わっ……!」
突然の速さに驚きながらも、必死でついていった。

神社の石段を抜けて、提灯の光の下を走り抜けていく翼の横顔はすごく楽しそうだった。