前世の婚約者は王太子殿下でした

「煌太郎様ともまた会えますよ。お嬢様と運命で結ばれているお方ですから。希望を持ってください」

 そう言って涙を拭う千代も、実家に帰っても居場所などなく、すぐに違うお屋敷へ使用人として出されるはずだ。

「千代、今までありがとう。あなたのことは忘れない」

 心を込めて感謝を伝えると、千代はついにしゃくりあげて泣いてしまった。

 桜和は部屋に戻って荷造りを始めたものの、持ち歩けるように小さくまとめるのはむずかしかった。
 身の回りのものを、あれもこれもカバンの中に詰め込みたくなる。

 父から、出来るだけ目立たない地味な着物を着るようにと指示が出た。庶民を装う気らしい。
 気に入っていた着物やドレス、髪飾りなどは、どれも上等だが全部は持っていけない。
 
 カバンや風呂敷に荷物をぎゅうぎゅう詰めにして、桜和はなんとか支度を終えた。
 結納のときに撮った煌太郎との写真を懐紙に挟み、紫苑の押し花と共に着物の襟元へと差し込む。
 落ち着いたら、また必ず会えると信じて――。

 江蔵は使用人たちを先に家から出し、菊地家には桜和と両親の三人になった。
 事業に失敗した代償として、先祖から受け継いだ土地や家屋を手放さなければならない。ついにそのときが来た。
 夜逃げのようなまねまでしなければいけなくなったのは自分のせいだと、江蔵は自分自身を責めていた。

「すまないな、目立つから馬は使えない」

 江蔵は所有している馬車も置いていくつもりのようだ。