前世の婚約者は王太子殿下でした

「お、お金さえ返せば免れるのですよね? それなら野宮のお義父様に話して助けを求めましょう」

 野宮家は公爵の地位にある。ほかとは比べ物にならないくらいの資産家だ。
 煌太郎と桜和は婚約しているのだから、野宮家に相談すれば力を貸してくれるのではないかと桜和は思った。
 みっともない話だが、使用人を含め一家が路頭に迷うくらいなら頼るべきだ。

「断られた」
「……え?」
「頼られても困る、沈む船には一緒に乗れない、と言われたんだ」
「そんな……」

 煌太郎の父は品がよく、どんなときでもおおらかにかまえている人だった。
 息子が気に入った娘なら、と桜和との縁談もすんなりと認め、来春の婚礼を楽しみにしてくれていた。
 そんな温厚な人物でも、自分の家が傾くかもしれないような事柄には巻き込まれたくないと判断したらしい。

 あちらは公爵だが、菊地家とて伯爵の身分。
 借金を肩代わりしてほしいだなどと頼みに行くのは、プライドの高い江蔵にはつらかっただろう。
 苦悶の表情になる父を、桜和は涙を浮かべながら思いやった。

「婚約は……煌太郎様との結婚はどうなるんですか」
「破談に決まっているだろう」

 父の言葉で、桜和は後頭部をなにかで打たれたような衝撃を受けた。
 十日前に野宮邸を訪れたときは、あんなに幸せだったのに……。