前世の婚約者は王太子殿下でした

 この社交界から十日が経ったころ、桜和は予知夢のようなものを見て目が覚めた。
 布団の上で上半身を起こすと、額に汗が滲んでいる。
 とても嫌な夢だった。両親と三人で辺りを気にしながら荷物を抱えて逃げる夢……。
 だけどそれ以上はわからない。なぜそうなったのか、どこへ逃げているのか。

 おそらくなにか嫌なことが近々起こるのだろう。
 そうなる前に食い止めねばと思っていたのだが、その日の夜、阻止できずに現実のものとなる。

 そろそろ就寝しようとしていたころ、桜和の父である江蔵が住み込みの使用人を含め全員を居間に集めた。

「夜更けにどうされたのですか?」

 桜和が呑気な声で尋ねたが、江蔵は渋い顔をしたまましばし考え込んでいた。
 隣にいる桜和の母は悲愴な顔つきになっている。

 ふたりの表情を見て、桜和は昨夜の夢のことが頭に浮かんだ。
 今からなにか起こる。夢のとおりになってしまう。そう考えたら一瞬で恐怖が押し寄せた。

「それぞれ荷物をまとめなさい。早朝にはここを出る」

 江蔵は静かな口調で全員にそう告げた。
 使用人たちは顔を見合わせて動揺している。