甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜

(こんなふうに心穏やかに過ごせるのは、左京さんと結婚したおかげよね。良かった)

片付けをしながらそう思いつつ、桜子は昔を思い出す。

桃香の父、つまり紅葉の夫は、料亭『しらゆき』の板前である津村(つむら)清志(きよし)
紅葉と同じ30歳の清志は、10年前に板前見習いとして『しらゆき』で働き始めた。

ちょうどその頃両親が離婚し、紅葉と桜子は母がいなくなったあとの『しらゆき』で、中居として父を手伝うようになる。

自然と言葉を交わすうちに、いつしか清志は桜子の初恋の人になっていった。

「桜子ちゃん、お座敷にお願い」
「はい、今お持ちします」

清志が盛り付けた料理を受け取る時に、ほんの少し手と手が触れ合い、頬を赤くする桜子。

だが清志をいつも目で追ううちに、桜子は気づいてしまった。

自分の好きな人が、誰を好きなのかを。

清志の視線の先には、いつも姉の紅葉がいた。