「初めまして、桜子と申します」
食事が一段落すると、左京に寄り添いながら、桜子はゲストのテーブルを挨拶して回る。
「あら、すてきなお嫁さんだこと」
「お着物もよく似合って。咲子さんを思い出すわね」
「左京くん、良い奥さんをもらったね」
「橘ホールディングスは安泰だな」
そんなふうに、誰もが二人を笑顔で祝福した。
「桜子ちゃん、今夜はありがとう。また会える日を楽しみにしているよ。ゆっくり休んでね」
「はい、お義父様も」
パーティーが終わるとホテルのエントランスで別れ、二人は戸部の運転でマンションへと帰ってきた。
「左京さん、お疲れ様でした。すぐにお風呂を沸かしますね」
「いや、俺がやる。桜子が先に入って」
「え、でも……」
「いいから、ほら。着物の手入れもあるだろう?」
「あ、はい。そうですね。大切なお着物ですから、きちんとお手入れしなくては」
「ああ。和室で着替えておいで」
「はい、それではお言葉に甘えて」
桜子は和室に行くと、脱いだ着物を専用のハンガーに掛けて風通しする。
汚れがないかも隅々まで確認した。
「桜子、お風呂沸いたよ」
「はい、今まいります」
いつもは左京のあとに入るが、今夜は言われた通りに先に入らせてもらった。
交代で左京がバスルームに行くと、桜子は髪を乾かしてから冷たいお茶を用意する。
「左京さん、お茶をどうぞ。お酒も召し上がりますか?」
「いや、お茶だけでいい。ありがとう」
左京がお茶を飲みながらパソコンを開き、桜子は明日の朝食の下ごしらえを始めた。
そろそろ寝ようかとキッチンの明かりを消したところで、桜子は、あれ?と首をひねる。
(左京さん、寝室に行かないのかしら)
ダイニングテーブルには、空のグラス。
だが左京はパソコンを開いたまま、まだ移動する気配がない。
桜子はそっと声をかけてみた。
「左京さん、お仕事まだ残ってるのですか?」
「ん? ああ、そうなんだ。桜子は先に休んでて」
「でしたら私も、もう少しやることが……」
すると左京は顔を上げ、真剣な表情で首を振る。
「だめだ、もう寝なさい。今日は疲れているはずだから。それに桜子、いつも俺が寝室に入るのを待ってるだろう? その必要はない。君だって働いているんだから」
「でも……」
「いや、働いている上にうちのこともきちんとやってくれる桜子の方が、俺よりもよほど疲れているはずだ。いいか? これからはもっと家事も手を抜いて早く寝なさい。身体を壊したらどうする?」
「だけど……」
困って立ち尽くす桜子に、左京は、ふっと笑みをもらした。
「なんだ、駄々っ子みたいだな。よし、じゃあおいで」
そう言って桜子の手を取ると寝室に連れて行き、桜子をベッドに促す。
「明かりはもう少し暗くするか?」
「ううん、あんまり暗いと怖いから」
「ははっ、そうか。駄々っ子の桜子ちゃん」
頭にポンと手を置かれ、桜子はそっと左京を見上げた。
「あの、左京さんは?」
「俺はもう少しリビングで仕事をしてから寝るよ」
「リビングで? ここではやらないの?」
「どうした、ほんとに子どもみたいだな。一人で寝るのが怖いのか?」
「……うん」
「え?」
左京は真顔に戻り、桜子を見つめる。
やがてそっとベッドの端に腰を下ろすと、優しく桜子の頭をなでた。
「じゃあ桜子が寝付くまでここにいる」
「そんな、左京さんのお時間を取らせる訳には……」
「大丈夫。ほんの数分だよ」
「ほんの数分でいなくなるの?」
「いいから、目を閉じて」
「うん」
「おやすみ、桜子」
「おやすみなさい、左京さん」
桜子はあどけない笑顔を浮かべると、目を閉じる。
そのままスーッと気持ち良さそうに寝入った。
左京はそんな桜子にクスッと笑って、耳元でささやく。
「おやすみ、桜子。良い夢を」
もう一度頭をなでてから立ち上がり、静かに寝室をあとにした。
食事が一段落すると、左京に寄り添いながら、桜子はゲストのテーブルを挨拶して回る。
「あら、すてきなお嫁さんだこと」
「お着物もよく似合って。咲子さんを思い出すわね」
「左京くん、良い奥さんをもらったね」
「橘ホールディングスは安泰だな」
そんなふうに、誰もが二人を笑顔で祝福した。
「桜子ちゃん、今夜はありがとう。また会える日を楽しみにしているよ。ゆっくり休んでね」
「はい、お義父様も」
パーティーが終わるとホテルのエントランスで別れ、二人は戸部の運転でマンションへと帰ってきた。
「左京さん、お疲れ様でした。すぐにお風呂を沸かしますね」
「いや、俺がやる。桜子が先に入って」
「え、でも……」
「いいから、ほら。着物の手入れもあるだろう?」
「あ、はい。そうですね。大切なお着物ですから、きちんとお手入れしなくては」
「ああ。和室で着替えておいで」
「はい、それではお言葉に甘えて」
桜子は和室に行くと、脱いだ着物を専用のハンガーに掛けて風通しする。
汚れがないかも隅々まで確認した。
「桜子、お風呂沸いたよ」
「はい、今まいります」
いつもは左京のあとに入るが、今夜は言われた通りに先に入らせてもらった。
交代で左京がバスルームに行くと、桜子は髪を乾かしてから冷たいお茶を用意する。
「左京さん、お茶をどうぞ。お酒も召し上がりますか?」
「いや、お茶だけでいい。ありがとう」
左京がお茶を飲みながらパソコンを開き、桜子は明日の朝食の下ごしらえを始めた。
そろそろ寝ようかとキッチンの明かりを消したところで、桜子は、あれ?と首をひねる。
(左京さん、寝室に行かないのかしら)
ダイニングテーブルには、空のグラス。
だが左京はパソコンを開いたまま、まだ移動する気配がない。
桜子はそっと声をかけてみた。
「左京さん、お仕事まだ残ってるのですか?」
「ん? ああ、そうなんだ。桜子は先に休んでて」
「でしたら私も、もう少しやることが……」
すると左京は顔を上げ、真剣な表情で首を振る。
「だめだ、もう寝なさい。今日は疲れているはずだから。それに桜子、いつも俺が寝室に入るのを待ってるだろう? その必要はない。君だって働いているんだから」
「でも……」
「いや、働いている上にうちのこともきちんとやってくれる桜子の方が、俺よりもよほど疲れているはずだ。いいか? これからはもっと家事も手を抜いて早く寝なさい。身体を壊したらどうする?」
「だけど……」
困って立ち尽くす桜子に、左京は、ふっと笑みをもらした。
「なんだ、駄々っ子みたいだな。よし、じゃあおいで」
そう言って桜子の手を取ると寝室に連れて行き、桜子をベッドに促す。
「明かりはもう少し暗くするか?」
「ううん、あんまり暗いと怖いから」
「ははっ、そうか。駄々っ子の桜子ちゃん」
頭にポンと手を置かれ、桜子はそっと左京を見上げた。
「あの、左京さんは?」
「俺はもう少しリビングで仕事をしてから寝るよ」
「リビングで? ここではやらないの?」
「どうした、ほんとに子どもみたいだな。一人で寝るのが怖いのか?」
「……うん」
「え?」
左京は真顔に戻り、桜子を見つめる。
やがてそっとベッドの端に腰を下ろすと、優しく桜子の頭をなでた。
「じゃあ桜子が寝付くまでここにいる」
「そんな、左京さんのお時間を取らせる訳には……」
「大丈夫。ほんの数分だよ」
「ほんの数分でいなくなるの?」
「いいから、目を閉じて」
「うん」
「おやすみ、桜子」
「おやすみなさい、左京さん」
桜子はあどけない笑顔を浮かべると、目を閉じる。
そのままスーッと気持ち良さそうに寝入った。
左京はそんな桜子にクスッと笑って、耳元でささやく。
「おやすみ、桜子。良い夢を」
もう一度頭をなでてから立ち上がり、静かに寝室をあとにした。



