甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜

「左京、どうだ? 桜子ちゃんとの結婚生活は」

役員会議のあと、社長である父に呼び止められて、左京は淡々と答える。

「穏やかに日々を過ごしております」
「相変わらず無愛想だな。だが、雰囲気が丸くなった。桜子ちゃんと幸せに暮らしてるんだろう?」
「はい」
「お? 素直に認めるなんて珍しい。そうかそうか、幸せそうでなによりだ。それでな左京、そろそろ桜子ちゃんを紹介してくれと周りから言われているんだ。結婚式は身内だけでこぢんまりと済ませたからな。次のパーティーは桜子ちゃん同伴で参加出来ないか? まずは若者がメインの気楽なパーティーからでも」

それは……と左京は躊躇する。

仕事の関係者が集まるパーティーは毎月のように催されるが、結婚後も左京は一人で参加していた。

「結婚したんだって? 次は奥さんも連れて来てくれよ」と言われる度に「はい、いずれ」と濁してきたのは、やはりこの結婚が一般的なものとは違うからだ。

桜子に妻としての振る舞いを求めることは出来ないし、求めたくもないと考え、左京はなんとか先延ばしにしてきた。

だが、そろそろ限界かもしれない。
これ以上頑なに拒むと、なにかあるのかと勘繰られてしまう。

パーティーは外国の関係者が多く、夫人をエスコートして現れる男性の方が評価される傾向にあった。

(どうしよう。帰ったらそれとなく話をしてみるか)

そう考えながら、その日の仕事終わりに桜子にメッセージを送る。

【これから帰ります】

するとすぐに既読がつき、返事が返ってきた。

【お疲れ様でした。お待ちしております。今夜は天ぷらと揚げだし豆腐です】

途端に左京のテンションが上がる。
何度か桜子の天ぷらを食べたことがあるが、さすが料亭の娘だけあって、とにかくうまいのだ。

一気に疲れも吹き飛び、左京は戸部の運転でマンションに帰った。