甘い夢はもう見ない〜お見合い結婚から始まる両片想いの恋〜

「左京さん」

子どもたちが寝静まると、桜子は客室を出て左京を探す。

ちょうど日本庭園が見渡せるガラスの回廊を見回っていた左京を見つけて、声をかけた。

「桜子、お疲れ様。悠真はもう寝た?」
「はい、もうぐっすり。雪遊びもはしゃいでたし、お風呂にも浸かって楽しそうでした。母と姉は、今飲み会をやってます」
「ははは! そうか。あとでおつまみを差し入れしよう」

そう言って笑ってから、左京は桜子の肩を抱いてソファに座る。

二人で静かに肩を並べ、雪が降り積もる庭園を眺めた。

「ね、左京さん」
「ん? なに」
「幸せだなーって、私、毎日思うんです。左京さんがいてくれて、悠真が生まれて来てくれて、母にも再会出来て。ツンと澄まして左京さんとお見合いした時の自分を思い出したら、笑っちゃうくらい」
「ああ、確かに。お見合いの時の桜子は、スンってしてたな」
「やだ、ほんと?」

自分で言っておきながら恥ずかしくなった桜子は、両手で頬を押さえる。

「恋愛の甘い夢も、結婚への淡い期待も捨てました、みたいな心境でしたから、あの頃は」
「俺もだ。あの時に描いていた未来とはまったく違ったな。こんな幸せがあるんだって、桜子に教えてもらった」
「私の方が左京さんに色んなことを教えてもらいました。たくさんたくさん心を温めてくれて、いつも優しく守ってくれて。愛されて幸せで、今もこんなにすてきな景色を見せてくれて。本当にありがとうございます、左京さん」
「こちらこそ。冷たい結婚のはずが、いつのまにか桜子が明るい笑顔で照らしてくれていたんだ。可愛くて、愛おしくて、俺をこんなにも幸せにしてくれて、悠真も産んでくれて。俺の人生でただ一人、かけがえのない人だよ。ありがとう、桜子」

照れたようにはにかむ桜子に微笑んでから、左京はそっと耳元でささやいた。

「桜子、そろそろ女の子を迎えようか」

え?と桜子は首をかしげる。

「悠真が生まれた時、桃ちゃんが教えてくれたんだ。次は女の子の赤ちゃんが来るって。今はお空で、さっきょパパのママと遊んでるって」
「ええ!? 桃ちゃんがそんなことを?」
「ああ。おふくろには悪いけど、そろそろ俺も娘に会いたくてたまらない。桜子、悠真の妹をつくろう」
「え、あの、そんな赤裸々な……」
「いいだろ?」

大人の色気を含んだ声でささやき、左京はチュッと桜子の頬にキスをした。

「ちょ、あの、左京さん」
「なに、照れてるの? 可愛いな、奥さん」
「もう、からかわないでください」
「からかってないよ、本気で言ってる。桜子、もう一人子どもがほしい。そして毎年冬になったら、家族みんなでここに来よう。子どもたちを大自然の中で、のびのびと遊ばせたい」

そうですね、と桜子も頷く。

「子どもにとってそういう経験って、大事ですものね」
「ああ。子どもたちが寝たら、俺は桜子と愛し合う」
「さ、左京さん!」

顔を真っ赤にする桜子を、左京は両腕に抱きしめた。

「愛してる、桜子。いつまでも俺のそばにいて」

桜子も頬を染めたまま頷く。

「私も、あなたが誰よりも好きです。ずっとずっと一緒にいたい」
「もちろん。離れられるなんて思うなよ?」

ニヤリと笑う左京に、桜子もツンと澄まして言い返した。

「はぐれないように、ちゃんと捕まえててくださいね?」
「言ったな。覚悟しろ」

左京はグッと桜子を抱き寄せると、その唇に愛の証を刻み込む。

ガラスの向こうにしんしんと降り積もる雪をとかすかのような、熱い熱い口づけを……

(完)