「……恋人、今はいないんだっけ?」
「……」
今、というより、今まで。
彼女を恋人だったと、カウントする権利が自分にあるのか、皇には分からなかった。
「……どうなんだろうな」
彼女とは、心を通わせたわけじゃない。
ただ、寂しいと零した俺を抱き締めてくれた。
温もりを分けてくれた。
─ただ、ただ、それだけだった。
「“彼女”、か?」
前に、彼にだけ零したことがある。
幼なじみの、大切な存在。
ずっと傍にいて欲しくて、
誰にも渡したくなくて、
俺のものだと、そう思っていたのに。
『もうおしまい。─またね』
大学の卒業式。
おめでとう、と、笑う2歳下の幼なじみ。
先日、彼女は20歳になって。
自分はやっと、大学を卒業して。
就職先も決まって、やっと、彼女にプロポーズを出来ると思ったのに。
彼女はあっさり、皇を捨てた。
いや、そもそも両思いなんかじゃなかった。
生まれ育った環境のせいか、ずっと寂しかった俺を、『生まれて来なければ』と否定されるくらいならば、死んでしまいたいと呟いた皇を、
『私がいるよ』
と、その一言だけで、彼女がこの世界につなぎ止めてくれていた。
だから、両思いなんかじゃなかった。
例え、ハグやキス、それ以上の身体的な関係があったとしても、彼女はただ善意で、全てを捧げてくれていたのだ。
決して、皇を好きだったわけではなく、皇はそれに甘えて、彼女の本音を聞かなかった。
『好きだ』と繰り返して、名前を呼んだ。
『そばにいて』と繰り返して、抱き締めた。
苦しそうにしがみついてくる彼女が可愛くて、何度もキスを繰り返し。
めちゃくちゃに愛していた。
彼女がいれば、それだけでいいと思うほどに。
彼女じゃなければ、何も要らなかったのに。
『それは、依存。大丈夫。皇の周囲にはもう、沢山の人がいるでしょう?独りじゃないよ』
そう言って笑って、彼女は消えた。
人並みに飲まれて、声をあげることも出来なかった。
大学で目立ちたくないと言った彼女を、声を上げて、下手に目立たせたくなかった。
……いや、それは言い訳だ。
ただ、彼女の瞳を見つめられなかったんだ。


