◇
忘れられない恋がある。
あれは世間で言うところの初恋で、
今なおも後悔し続けている。
「─はよ、天宮」
「おはよう」
パソコンの画面から顔をあげると、こちらを覗き込みながら、同僚・冴島樹(サエジマ イツキ)がアイスコーヒーを手渡してきた。
「ありがとう」
「どーいたしまして」
大窓の、陽の光が心地よい休憩室。
そこで仕事をすることが日課になりつつある皇は、静寂な空気の中、何も考えずに仕事に熱中する日々を送っていた。
「─また、親父さんから?」
とあるメールを読んで、舌打ちをしたからだろう。入社時から相棒のような関係の彼は、少し聞き辛そうな顔。
「ああ」
「……その顔だと、また、結婚とかか」
「……」
パソコンを閉じ、ため息を零す。
数年前から、海外にいる父親から頻繁に届く。
そのメールは、何度も皇の神経を逆撫でするような文面で、結婚をするつもりはないと、何度も繰り返し伝えているはずなのに。
「唯一無二の後継者だからか?」
「知らない。……ふとした時に思い出したように連絡してくる相手を、父親だと思ったことがない」
幼い頃、家には常にひとりだった。
母は父に愛想を尽かし、男と家を出て行った。
父は母を悪し様に罵り、帰ってこなくなった。
お金に困ったことはなかったが、時折、子どもとしてどうすれば良いか悩んだ時、近所に住む女性が助けてくれた。
その女性は夫を早くに亡くし、シングルマザーで日々、働き詰めだった。だから、その女性の娘と過ごす毎日。
裕福とは言えなかった。
でも、大きいのに空っぽで寒い家とは大違い。
狭くても、お金がなくても、温かくて、ご飯は美味しかった。
忘れられない恋がある。
あれは世間で言うところの初恋で、
今なおも後悔し続けている。
「─はよ、天宮」
「おはよう」
パソコンの画面から顔をあげると、こちらを覗き込みながら、同僚・冴島樹(サエジマ イツキ)がアイスコーヒーを手渡してきた。
「ありがとう」
「どーいたしまして」
大窓の、陽の光が心地よい休憩室。
そこで仕事をすることが日課になりつつある皇は、静寂な空気の中、何も考えずに仕事に熱中する日々を送っていた。
「─また、親父さんから?」
とあるメールを読んで、舌打ちをしたからだろう。入社時から相棒のような関係の彼は、少し聞き辛そうな顔。
「ああ」
「……その顔だと、また、結婚とかか」
「……」
パソコンを閉じ、ため息を零す。
数年前から、海外にいる父親から頻繁に届く。
そのメールは、何度も皇の神経を逆撫でするような文面で、結婚をするつもりはないと、何度も繰り返し伝えているはずなのに。
「唯一無二の後継者だからか?」
「知らない。……ふとした時に思い出したように連絡してくる相手を、父親だと思ったことがない」
幼い頃、家には常にひとりだった。
母は父に愛想を尽かし、男と家を出て行った。
父は母を悪し様に罵り、帰ってこなくなった。
お金に困ったことはなかったが、時折、子どもとしてどうすれば良いか悩んだ時、近所に住む女性が助けてくれた。
その女性は夫を早くに亡くし、シングルマザーで日々、働き詰めだった。だから、その女性の娘と過ごす毎日。
裕福とは言えなかった。
でも、大きいのに空っぽで寒い家とは大違い。
狭くても、お金がなくても、温かくて、ご飯は美味しかった。


